7話:冒険者(1)

 人間社会にて。

 魔族の王である魔王が住む城の遥か遠く、ギルドに併設された夜の酒場にて。


「フロアボスがリザードマン? そんなダンジョンがあるわけないだろ。ダンジョンというのは財宝やアイテムの守護を目的としたものだ。俺たち冒険者はそこに入って強奪しているに過ぎない。とはいえ、最近は魔王軍がダンジョンの調査を行ったりダンジョンの力で強化を行ったり儀式を行い強力な魔物を生み出したりもしているらしい」

「だから私たちが調査するんでしょ? といっても既に攻略されてそうだけど。ダンジョンを攻略してもらえるものは回収しておく。魔王軍の動きが活発だし、できればやつらに見つかる前に攻略するか魔族が占拠しているなら倒しておくかしないとだよ?」


 ライフルを背負った男はドリットという。

 まだ若いが魔弾という特殊なライフルが使える。

 撃てば必ず必中するという因果律を無視した武器。それを使用することができるのは魔弾に見初められているからだ。

 

「魔王というよりは魔族としてろくに地位がもらえないやつらが住処として占拠しているだけではないのか? リザードマンは弱くない。だがフロアボスは聞いたことがない。魔王軍と戦ったときも群れによる連携プレイを得意としていた」

「次の階層にはオークだって。スライムもいたみたいだけど。もうすぐ行ったパーティが帰ってくると思うけど? あんなに小さな、しかもろくな魔族、魔物がいない。調査隊がオークまでの階層を調べたって。攻略するにしても五つもパーティ要らないでしょ」

「楽な仕事だからか。魔王軍のはぐれ者でも一応は魔王軍関連、異常に高い報酬と命の危険もないに等しいダンジョン」

「そうだね。私は楽しくはないと思うけど?」


 ドリットと話す少女はフェルスという。

 動きにくいだろう背中まで届くツインテールが特徴的だ。


「おい、フェルス。俺のスープにてめえの髪が入ってるぞ?」

「あー、ごめんね。でも私いつも気を付けてって言ってるよね?」

「おいおい、長い髪は切れって言ってるはずだが? 魔法使いは戦闘中に足を動かすようなことがあったら負けって馬鹿だろ? なんだその美学」

「そういう師匠だった。実際私より強い魔法使い見たことないでしょ?」

「てめえほど自分勝手な魔法使いも見たことないな。結局二人で冒険者やってるだろ。もっと人手くれよ。せめて剣を扱えるやつがほしい。物理攻撃できないだろ」

「でも気が合わない剣士を雇っても気分が悪いわ」

「じゃあいつまでも二人じゃねえか、ふざけんな。俺は魔弾の使い手だ、魔王を倒すつもりで冒険者になったのに気づいたら意味不明なダンジョン攻略ばかり。フェルス、聞いてるか?」

「聞いてるもちろんとも。でもリザードマンとオークがフロアボスのダンジョン、逆に何があると思う?」

「金になるものはないだろ。あ、帰ってきた」


 ドリットとフェルスは泥だらけで疲弊した冒険者たちを見た。

 怪我をしているわりには精神的な怯えなどが見えない。

 それに喜びなども感じられない。

 その冒険者たちの一人が他人のジョッキを奪って飲む。

 奪われた男は怒りのあまり殴りかかろうとするが、飲んだ男の途方に暮れたようにも見える表情を見て止まった。


「俺たちは、負けたんだよ」


 そしてテーブルに顔を伏せて泣く。

 酒場は笑い声に包まれた。

 ドリットはよく観察してみる。

 どうやら二つの初心者パーティが帰っただけのようだ。

 なら残りの中級者以上のパーティはどうしているか?


「フェルス、俺たちの番だな」

「楽しそう?」

「初心者は帰ってきた。中級者は戻ってきていない。簡単な話、少なくとも初心者を殺そうとはしていない。調査隊は仕事をさぼった。一見馬鹿らしく見えるからな。ただ相手からは余裕が見える。最下層、一体どんな化け物がいる?」


 ドリットは魔弾を強く握る。


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