6話:平和のための迷宮
第三回迷宮会議の翌朝。
ライヒの家にて。
「シェーン、元気がない。どうした?」
「そう見えますか? 実は良いことがあったのにそう思ってしまうなんて。ライヒ様は私のことが全然分かってないようですね。話聞きます?」
「あー、そうだな」
ライヒが言うとシェーンの体から粘着質のようなものが跳ねた。
シェーンは顔を赤くしてライヒに迫る。
ライヒを横に倒して。
いつものように膝枕をした。
温もりがライヒの頭から伝わっていく。
高反発で頭を支える一方、スライムの性質から形を変えることができるため接触面積が大きい。優しい温もり、包み込む柔らかさ。
もしシェーンが泣きそうでなければ、ライヒは幸せのあまり眠っていただろう。
「ロート、ブラウ、ゲルプ。ゴーレムの操作できるそうです。私、二名ずつで操作してもいいと思っていましたが、一名で操作したいらしくて。本番には間に合いますよ、ライヒ様」
「そうか。でも泣いてるぞ。僕は負けるなどもう言わない」
「知ってます。私、夢があるんです」
「僕もだ」
「三つです」
「奇遇だな」
「一つは人間と仲直りしたいです、人類と魔族の仲直り。争いが激化する前は人間の友達がいて。また会えるって思っていたのに、人類と魔族の喧嘩が、殺し合いが長すぎて寿命で死んでしまって。遊ぼうって約束したのに」
「僕も仲直りしたい。同じだな」
「二つ目はこうしてライヒ様と一緒にいたいです」
「悪くない」
「三つ目はライヒ様と一緒に何かを成し遂げたいです。ライヒ様、夢を諦めたくないです。だからいくら誰かが死ぬ価値がないと分かっていても、私は迷宮を守っていきたいです」
「僕もその通りだ」
「ライヒ様は平和のための魔族です。私を迎えるために成果を上げて、でも誰も殺さなくて。ライヒ様、いつか」
シェーンは俯く。
シェーンとライヒは目を合わせた。
「私はライヒ様に王になってもらいたいです。次期魔王は平和を望むライヒ様がいい。補佐として、いや幼馴染として。ライヒ様、私は平和がほしいです」
「僕の補佐は僕と同じ意思を持つ者でなければならない。それも飛び切り優秀で強い魔族。シェーン、僕の隣は君が相応しい」
「はい! 隣ですね!」
シェーンは立ち上がろうと膝を立てる。
ライヒの頭が動いた。
「そういう隣ではないが?」
「隣は私がいいと? ライヒ様の命令です、素直に聞いてますけど。膝枕ではなくて、隣ですよね、ライヒ様!」
「シェーン、スライムの王としての責務を果たせ」
「ふふーん。つまり?」
シェーンが笑う。
ライヒは顔を手で隠した。しかし、シェーンの膝とライヒの頭が接触しているのもあって、ライヒが火照っているのが伝わる。
「そのままでいてくれ。僕は少しだけ眠ることにする」
「ねえ、ライヒ様。私、この戦いが終わったらプロポーズするんだ」
ライヒは目を開けた。
固まっているとシェーンは頭を掻く。
「あはははは、私人類が作る舞台とか結構好きなんだ」
「そういう台詞なのか?」
「有名な台詞なの。この台詞はね、絶対死にたくないって、そう思った人が言ってるはずの言葉なの」
「そうか。いくら『蘇生の核』があると言っても倒されれば夢は断たれる。僕は死ぬ気などない」
「そうですよ? ライヒ様そろそろ寝てください」
寝ますよね、ではなくて。寝てください、か。
ライヒは目を閉じる。
額に温かくて柔らかい感触。
「大好きなんです、ライヒ様」
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