5話:罠とギミック
「それでは第三回迷宮会議を始めます。今日はみなさんに迷宮内の罠とギミックについての意見をいただきたいと思います。予算は私が管理していますが思ったよりも余裕がありそうなので! 私のフロアに関しては外から泥を運んで少々苔の栽培をします。苔には魔力を蓄えやすいものを採用して私や私の部下たちが魔力補給に使えるように。燃えると毒を出す植物も置いて野宿できないようにします!」
「そうだな。スライムやシェーンは物理攻撃の完全無効化、毒耐性があることも十分に生かせる。所々岩を置いて進みにくくしても良い。スライムなら問題ない」
「そうしましょうか。随分安くできます。ライヒ様は何か欲しいですか?」
「巨大な剣と鎧だな。元々使っていたものを。ボス戦はギミック、罠もなしで行こうと」
ライヒが言いかけるとシェーンが頬を膨らませていた。
「ライヒ様は罠やギミック自身の声を聞くことができますよね? 罠やギミックが多いほど有利なんじゃ?」
ライヒは微笑む。
シェーンの鼻を人差し指で押さえた。
「ボス戦だぞ。小細工なしの肉弾戦だ。僕だって冒険者というものに興味を持っている。迷宮に誰かが死ぬ価値などない」
「分かりました、ライヒ様の言いたいこと。もっと人間を知りたいのですね! それでこそ、ライヒ様です。誰よりも平和を愛する方ですね」
どうやらシェーンは納得したらしい。
もちろん費用を抑えたい気持ちはあって、理由の九割は占めているが。
それでも人間と直接対話したいのはライヒが日頃から思っていたことである。
「残り三フロアですね。リザードマンさん、オークさんフロアのリーダーとして何かありますか? もちろん、ゴブリンさんたちも人食い植物さんたちも」
「天井が落ちてくるやつ。岩が転がってくるやつ。横から矢が突き刺さるやつ。これこそ罠ってものはどれも憧れますな」
リザードマンが言う。
するとシェーンが一枚の紙を出した。
「どうやら全部高くて。設置に特別な方を招く場合には非常に高額なのでできれば私たちでできるものが良くて」
「そうだったのか。岩を転がすくらいなら用意できそうだ。岩を削って坂があるところに運ぶ。そして冒険者がスイッチを踏むと岩の押さえがなくなって出てくるくらいのことなら」
「あ! おそらく上から大きな石を落とすくらいならできるかもしれないです。私の部下は身体より小さいものなら容易に運べますし、壁や天井に張り付くのは得意ですので」
「そういうことですか? スライムに石を飲み込ませて天に張り付きタイミングよく落とす。罠になりますぞ」
リザードマンはシェーンの提案に乗ったらしい。
「そういえば、落とし穴もありますな。地盤がほどよく硬い場所なら穴は雇わなくても掘れるかと」
オークは立ち上がって言う。
ライヒがメモをしようとすると人食い植物が花を大きく広げて周りの気を引く。
「落とし穴はね、掘って作るタイプと地面が開くタイプがあるわ。そう、後者はシステム上高額になると考えていい。一方で前者なら幻覚魔法がいるわ。落とし穴は見れば分かるでしょう?」
人食い植物の話の通りである。
穴を掘って上に竹などを、網目を作るようにして置く。
その上に布のようなものを被せる。
さらにその上に土を置いて固める。
最も安くできるがその程度の罠を見抜けない冒険者はいない。
したがって幻覚魔法などで適切な判断ができないようにするのが良いだろう。
「燃えると毒を出す植物を育てる。人食い植物、毒は平気か?」
「あたしたちは毒も酸も耐性があるわ。その点ではスライムと同じ。もちろん物理攻撃が苦手。火はもらうだけでも厄介。湿っていて火を点けると毒が出る植物。あたしたちのところにあれば嬉しいわ。ただ毒は即効性がないこと、ポーションで回復できてしまうこと。そうね、罠で火を使えなくするのはあたしやスライムにとっては要だわ」
人食い植物が言い終えるとゴブリンが手を挙げる。
「どれだけ分かりやすい罠でも数があると厄介ですぜ。わしらは精密な罠は苦手ですが、簡易な罠ならいくらでも。ライヒ様には安く提供しますぜ」
「なら落とし穴だな、頼んだ。下にはしびれを生じさせる針を置いておきたい。それくらいか。武器やその他のアイテム、シフトや給料については追って話そう。第三回迷宮会議はここまでとする」
ライヒはシェーンを見る。
どうやら元気が無さそうだった。
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