4話:雇用者たち

 深夜、例の料亭にて。


「さて、雇用募集の結果この者たちに決めた。あとはそうだな、足りない分の補充について相談がある。冒険者に勝つぞ!」


 ライヒが言うと場が静かになった。

 しかしすぐにドッと騒がしくなる。


「「俺たちはシェーン様とともに! 冒険者たちを痛い目に合わせてやります!」」

 スライムたちは嬉しいのか何度も跳ねる。

「フロアを任せるなんて言われたから心中でもするのかと思いましたぜ」

 リザードマンは得意の斧を演舞のように回して見せる。

「実に悪くない。流石はライヒ様ですな」

 オークは愉快そうに手を叩く。


「ね? 皆さん勝つって言葉を待っていたんですよ。こう見えて私強いので。それに女の子の私が頑張ってるのに負けるつもりな方いますか? ねえ、ライヒ様」

「分かっている。ちゃんと勝ちに行く。そのための新たな仲間たちだ。頼むぞ」


「けけけ。ダンジョンと言えばわしらですぜ。ゴブリン部隊参上。わしらお金で仕事の質を決めるんで」


 小鬼は短剣を抱えていった。


「あたしたちリーダーが熱い人って知って熱に浮かされてしまいそう。あらやだ、シェーンちゃんの邪魔はしないわ。みんなライヒ様とシェーン様のカップル推しですものね」


 人サイズの無数の植物。花弁の大きな花を一つ咲かせていて、めしべからはドス黒い気配が漂う。

 実際はその気配こそが本体の精霊である。

 便宜上、人食い植物と呼んでいる。


「悪くないってことですな」

 リザードマンが言う。

「勝とうとする気合が見えてなお良いというか」

 オークは嬉しそうに顎を触る。


「ゴブリンと人食い植物だ。それで相談は、ゴーレムを五体ほど導入したい。『蘇生の核』が必要ない分、コスト削減に使えるかもしれないからな」

「ライヒ様、もしかしてゴーレムの動作原理を知らないんですか? あれは魔法で操作していて。私は基本的にスライムの能力とスライムをサポートする魔法しか使えないので操作できません。オークさん、リザードマンさんも精密な魔法は得意ではないですよ? 人食い植物さんの本体は聖霊さんですが植物に憑いていないと霧散してしまいます。ゴブリンさんは武器を取って戦う方です。なのでゴーレムは迷宮主であるライヒ様しか使えなくてさらなる人員補充が必要です。新たな人員のための防具や『蘇生の核』の値打ちを考えるとゴーレムは」


 シェーンが言い掛けると、ライヒは椅子に魔法をかけた。

 すると椅子が回転をしてライヒが指を鳴らすと倒れる。


「僕は道具の操作に長けている。いつ壊れてしまうのか、どんな動きができるのかゴーレムを構成する物から意志を読み取れる。巨大なゴーレム二体は僕が操作しよう。小さめのゴーレム三体に対しては、三色スライムがゴーレムに入り込んで直接動かせ」

「ええ、ロート、ブラウ、ゲルプできますか?」

「「俺たちシェーン様に言われれば」」


 スライムは応えた。

 シェーンはスライムの頭を優しく撫でる。


「分かりました。たぶん特訓しなきゃだけどできるよね?」

「「もちろんです、シェーン様!」」

 シェーンが聞くとスライムたちは元気よく答えた。


「ということで第二回迷宮会議を終了する」


 ライヒが宣言すると、リザードマンが手を。


「そこまでゴーレムを使う理由は?」

「そうだな、賢いお前なら分かるはずだ。操り手がどこにいるか、まさかゴーレムの中にいるとは思うまい。それに、ロートは炎を使うスライム、ブラウは氷を使うスライム、ゲルプは雷を使うスライム。つまりゴーレムによる初見殺しだ」

「ライヒ様!」

 リザードマンは楽しそうに言う。

 ライヒも悪そうな笑みを見せる。


「初見殺しで時間を稼ぐ。冒険者に勝つぞ、野郎ども。まずは低予算状態でいかに凌ぐかだ」

 ライヒは長期戦を想定していた。

 負ける前提の男ではない。

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