第38話 人は成績だけ良ければいいわけじゃないのよ
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つつがなく二月は終了し、つつがなく三月も過ぎていく。
第二学年三学期末のテストの結果が返却された。
今年一年の俺の成績に昨年からの変化は特にない。学年一位をキープしていた。
二年生になって成績関連で変化があったのは廊下への成績表の掲示内容だ。
理社が選択科目になっていたから、そのまま五教科の合計点を掲示したところで物理と生物、日本史と世界史でテストの内容も難易度も違っているため単純には比較できない。
そのため共通科目である国語、数学、英語の三科目の合計点が掲示され、それとは別に参考値として物理と生物、日本史と世界史も含めた五教科の合計点数が掲示された。
建前的には物理と生物、日本史と世界史のテストの難易度は同じという設定だ。
とはいえ、三科目の場合も五科目の場合も俺の合計点は一位だった。
普通に考えれば、これで来年度も俺は特待生に選ばれるはずだ。
あと一年。巡り合わせから意図せず他県の私立高校に通う事態となったが、どうにか学費の心配はせずに卒業まで過ごせそうだった。俺の肩の荷が少し下りた。
校内順位はもちろんだがアルファベット一文字の名前を持つ全国的な模試の結果も悪くない。
さすがに全国一位とは言わないが二桁前半には入っていた。現時点で国内トップクラスの某国立大学いくつかにA判定をとっている。有名私立大学も言わずもがなだ。
自称進学校の我が校にとって俺は期待の星以上の存在だろう。一番星の生まれ変わりだ。
実際にどこの国立大学に進学するかまでは、まだ考えていないが、行かないつもりの私立大学も記念に受験して合格の数を稼げば学校側は卒業生の主な合格先として俺が合格した大学の名前をパンフレットに掲載できる。
高校への入試志願者数を増やすための良い宣伝材料だ。俺の授業料ほかを免除する程度の金額で効果的な宣伝ができるのだから俺はお買い得にもほどがあるだろう。
そもそも高校側は実際の出費は何もしていない。俺の授業料ほかの支払いを免除したところで入ってこないだけで払っているわけではないので、まったく懐は痛んでいなかった。
もちろん俺が余分に私立大学を受験する際の受験料は何らかの名目で高校側に出してもらうつもりだ。以前、理事長からそのようなアルバイトを持ち掛けられていた。
『そういう対応が取れるように君にはぜひ学業を頑張ってもらいたい』
学校として俺を特待生にするか否かの最終的な判断は教師による会議で案が決定された後、理事会による承認を経て年度内には郵送で通知が来るはずだった。
昨年は三月二十八日に通知が届いた。今年も同じ頃だろう。
そう思っていたが三月三十日時点で俺が来年度の特待生に認定されたという通知は届いていなかった。
単純に今年は通知が遅いだけかも知れないが配達事故という可能性もある。
念のため俺は高校に電話をかけた。
平日なので学生は春休み期間中だが教師や事務員には勤務をしている者もいるはずだ。
教師は長期休暇中でなければ年休を取得しづらいらしいので休んでいる教師もいるだろう。
さすがに理事長に直接電話を繋いでほしいとは言えないので来年度もお世話になる可能性がある二年次の担任教師に繋いでもらった。
「残念ながら相羽くんは来年度の特待生には選ばれていないわ」
元担任は俺からの問い合わせに一瞬口籠った後、そう言った。
「どうしてですか?」
「私からどうしてと詳しくは言えないのだけれども保護者会から理事会への働きかけもあり特待生を選定するための校内基準が改正されたの。成績だけでなく普段の生活態度であるとか生徒会活動への参加実績など様々な要素を含めて総合的に判断されるように変わったわ」
「そうですか」
「人は成績だけ良ければいいわけじゃないのよ」
やけに含みのある言葉だ。
俺の成績について言えば昨年度と同等か昨年度以上の結果を出している。
にもかかわらず俺が来年度の特待生の選考で落ちたということは俺の成績以外の部分で、それだけマイナスが大きいということだ。
なるほど。俺の人間性の問題か。
否定はできない。
校内に友人の一人もいないし個人的につきあえないと感じる学校行事は休んできた。
学校は学業だけではなく人格形成の場でもある、とかそのような言い草をされれば俺の人格は十分な成長をしていないのだろう。特待生には相応しくない人格の持ち主という判断だ。
そこまで俺はマイナスか?
特待生の選定結果に恣意的な何かを俺は感じた。
わざわざ俺を特待生にしないために選考基準を変えたのでは?
そう疑いたくなる。
なぜ、そんな嫌がらせを俺に対して学校がするのかは知らないが相手が誰であれ俺は泣き寝入りだけは絶対にしないと決めている。人生で一番嫌いな行為が泣き寝入りだ。
泣き寝入りをするくらいならば例えどんなに自分の被害が大きくなったとしても相手への仕返しを俺は選択するだろう。
悪い奴がのうのうと振舞っていると想像するだけで腸が煮えくり返った。
その上、嘲笑われてすらいるかと考えると爆発しそうだ。
とはいえ、まずは事実確認だ。
つつがなく過ぎていたはずの三月は、つつがなくは終わりそうになかった。
翌三月三十一日。
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