第30話 まだ名前が黒板にない人は誰?
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二年の四月も終わろうとしていた。
高校二年生におけるビッグイベントに修学旅行がある。
修学旅行なのに、なぜ二年生で行うのかという疑問があったが全高校の約九割が二年次に修学旅行を行うそうだ。三年生になると模試や受験で忙しくなるからという理由らしい。
自称進学校であればなおさらだろう。学校としては受験の邪魔になりそうなイベントを三年生にさせたくはない。当然、
行き先は一年次に行われたアンケートにより既に決定されている。
北海道、九州、沖縄、京都、大阪、広島、某夢の国といった行き先の候補地と必要な旅費の目安となる金額が提示されて、親と相談の上、第一希望と第二希望を回答するアンケートだ。
正直どこでも良かったので俺は旅行代金が安い順に二か所を選んで回答した。
別に祖父母と相談はしていない。
集計の結果は某夢の国だった。
次点で大阪の類似施設。
修学旅行って一体何だろう?
実際の旅行の時期は秋だが保険か何かの関係でメンバーと班編成を早めに決定して旅行会社に提出する必要があるらしい。
四月最後の週のロングホームルームの時間に修学旅行の班分けが行われた。
班分けの方法は
個人的に一番対応に困る方法だった。
誰とでもいいから近くの人間と班を組め、という言い方をされれば俺は対応できる。
必要ならば人を集める音頭もとろう。
けれども、友達同士でと言われてしまうと動けない。
わざわざ対象を友達と限定する意味が分からなかった。
しかも一緒に行動をしたい程の友達だ。
俺にとって、そんな相手がわずか一か月しか付き合いのないクラスの中にいるはずがないだろう。外にもいないが。
このタイミングで班分けを行うということは担任教師の判断としては新クラスになり一か月も経てばクラスメイトたちには全員誰かしら友達がいて
クラスに顔見知りはいるかと問われれば、もちろんいる。
一言二言何らかの必要があって会話をした相手もいる。
クラスの全員の顔と名前が一致するかと言われたらまったく一致しないが逆にクラスの誰もが俺の顔と名前は知っているはずだった。
俺は出席番号一番でありつつ成績も学年一番だ。
テレビやネットで散々叩かれまくったにも関わらず全校生徒の前で警察から感謝状を受け取っている。
だからこそ俺とはお近づきになりたくないと考えている者もいるだろう。
相手にするのが面倒臭そうな存在だ。
俺は何もしていないのにクラスメイトたちから何となく苦手意識を持たれている気配は感じていた。
そもそもの話として担任教師は簡単に友達という言葉を使ってくれるが友達の定義がよくわからない。
少なくともただのクラスメイトと友達は違うという理解を俺はしていた。
クラスメイトはただの顔見知りにすぎないが友達となるとただの顔見知りよりも親しい間柄だ。
例えば、小さい頃、母親に連れられて行った先の公園で見知らぬ同じ歳くらいの子供と何時間か遊んだ覚えがある。
その別れ際、母親が俺に言うのだ。
「お友達にバイバイして」
向こうの母親も自分の子供に同じようなことを言っている。
もちろん、俺は「バイバイ」と相手と別れるのだけれども俺とその子供は友達じゃないよね? たまたま今日一緒に遊んだだけの相手だ。
何日かしてまた母親に連れられて行った公園で、やはり同じ子供と会ったら母親が俺に言うのだ。
「麟ちゃん、良かったわね。お友達がいて」
俺は物凄く違和感を抱いた。
いや、この子と俺は、まだ友達じゃないよね。たった一回遊んだ経験があるだけだ。
もっと何度も遊んだりして親しみポイントを積み上げればいずれ友達と呼べる仲になるのかも知れないけれども、まだそうじゃない。言葉は正しく使いましょう。
小学校の頃、俺は同学年の大抵の子供たちを友達だと思っていた。
少なくとも小学三年生のある時期までは間違いなくそうだ。
入学以来、毎日顔を突き合わせて自分の中に親しみポイントを積みあげていた。
小学三年生の時に、こちらは友達だと思っていても相手からは大嫌いだと思われている場合もあると知った。もしかしたら友達だと思っているのは一方的に自分だけかも知れない。
自分が友達だと思っている相手が自分を友達だと思っているかどうかはどうすればわかるだろう?
自分を友達だと思っているか分からない相手を自分は友達だと思うことはどうすればできるのだろう?
多分誰かと友達であることと友達同士であることは同一だ。どちらかが相手を友達ではないと思っていたとしたらその関係は友達ではない。友達同士ではない友達は存在しない。
その事実に気付いた途端に俺と同学年の子供たちとの関係性は全員友達から、ただの知り合いであったり顔見知り、クラスメイトにすぎなくなった。いずれにしても人生の一時期同じ学校に通うだけの関係性だ。一生付き合う相手ではない。
そもそも俺は高校生活における人間関係はただのクラスメイトでしかないと思っている。
どうせ大学に行けば別れて二度と会わないのだ。
だから、最初から担任教師が指定した、一緒に行動したい友達同士という条件は俺には無理ゲーだ。
自分の班が決定した人たちは、それぞれ黒板に自分の名前を書いた後は思い思いに雑談していた。
大体話がついたと思ったのか担任が黒板に書かれている名前を指で差しながら数えていく。クラスは総勢三十六人だ。あぶれ者の確認である。
「……三十三、三十四、三十五。あれ、まだ名前が黒板にない人は誰?」
「はい」と俺は手を上げた。
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