第47話 対峙
ソフィアはモニターに映るイグニスをキッと睨み、「バカッ! 本当に遅いわよ!」と怒鳴りつけたが、すぐに「本当に死ぬかと思ったんだから……」と気が抜けたように本音を吐露したのだった。
「悪かったよ、ソフィア。輸送艦が攻撃を受けたせいで出口が塞がれちまってさ。外に出るのに時間がかかったんだ」
イグニスは〝フォルセティ〟の動きを観察しながら「動けるか?」と聞くと、ソフィアは「それが……」ともどかしそうに話し始めた。
「どうしてか分からないんだけど、さっきから駆動系が全く機能しなくて。システムも固まり始めてるのよ」
『だったら、完全に動かなくなる前にフルシンクロした方がいい。
父さんが会話に割り込んで答えてくれたが、モニターに映っていたソフィアの顔がだんだん曇り始めた。
「やっぱり、あれは〝L-219〟なんですね……」
『攻撃だけを見ればそうなるな。だが、問題はそれだけじゃない。あのヴァルキリーがどうして〝L-219〟の攻撃を使えるのか――おっと、悠長に話をしてる場合じゃないな』
話している途中で〝フォルセティ〟が光の球体を放ってきた。〝グルヴェイグ〟も両掌を合わせて小さな火球を作り出し、それを光の玉に向かって投げつけると大きな爆発が起こる。
イグニスとソフィアはあまりの眩しさに顔を顰めたのだった。
『とりあえず、早くここから離脱しろ。アスガルドに戻ったら、すぐに応援を呼んでくれたら助かる』
ソフィアは一瞬、戸惑ったような表情になった後、「……わかりました」と答えた。きっと、今やれる最善は何かを考えて返事をしたのだろう。
「すぐに応援を呼んできます。私、絶対に戻ってきますから……。絶対……絶対……」
ソフィアは最後まで言わなかったが、声がずっと震えたままだった。そして数秒黙り込んだ後、〝アストランティア〟の目がピンク色に光る。それから、〝グルヴェイグ〟にゆっくりと背を向けた。
「……ソフィア、帰ったらまた飯食おうぜ。形式上、ヘリオスが決闘に勝ったからな。三人で飯を食うぞ」
ソフィアは「えぇ、勿論よ!」と今できる精一杯の笑顔で答えた後、通信を切って宇宙船・アスガルドがある方向へ全速力で飛んでいったのだった。
イグニスは〝アストランティア〟の後姿を一瞥した後、〝フォルセティ〟に向き直った。
〝フォルセティ〟は〝グルヴェイグ〟を見下ろす位置に飛んでいたが、今は相手の出方を伺っているのか、何も仕掛けては来なかった。
「おい、ヘリオス。俺の声が聞こえるか?」
ソフィアがあれだけ呼びかけても応答がなかったのだ。期待はできなかったが、念の為、イグニスからもヘリオスに向かって声をかける。
「やっぱり応答なしか。ヘリオスが決闘を辞退してくれって言ってたのって、こうなる事が分かってたからか?」
『多分な。だが、原因を突き止めればお前の友達を救えるかもしれない。まだ諦めるのは早いぞ』
「うん、分かってる。〝フォルセティ〟を壊してでも止めて、ヘリオスをコックピットから引きずりださないと」
イグニスが改めて操縦桿を握り直した。
〝グルヴェイグ〟をまだ使いこなせてはいないが、できる事なら自分の手で友達を救いたい。その気持ちを汲んでなのか、父さんも今すぐに操縦を代われとは言わなかった。
『いくぞ、イグニス!』
「あぁ!」
イグニスは接近戦用の武器である〝イーグルクロー〟を選択した。〝フォルセティ〟に向かって一直線に飛び、コックピットがある胸部装甲に向かって爪を立てる。
だが、〝フォルセティ〟も黙ってはいなかった。〝グルヴェイグ〟の腕を掴み、力一杯握り締めてきたのだ。
「ぐあっ!!」
イグニスの右腕に痛みが走り、操縦桿を握る手が震えた。
人間の握力では比較すらならないヴァルキリーに腕を掴まれているのだ。このままでは腕をへし折られてしまう――直感でそう思ったが、せっかくのチャンスを逃す訳にはいかないと、〝フォルセティ〟の装甲を剥がすように引っ掻いた。
すると、表面の装甲の隙間からぐったりと操縦席にもたれ掛かるヘリオスの姿が見えた。しかし、意識が混濁しているのか、うなされているように見える。
「ヘリオス、大丈夫か――ッ!?」
突然、イグニスの意識がぐわんと揺らぐ。
何が起こったのか分からない。もしかして、攻撃されてしまったのだろうか?
「あ……なんだ、これ……」
『どうした、イグニス!? おい――』
イグニスの視界が光に包まれるように真っ白に染まり、父さんの心配する声も次第に聞こえなくなってしまった。
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