第46話 逃げ惑うソフィア
〝フォルセティ〟が無数の光の玉を作り出し、それらを〝アストランティア〟に向かって放ってきた。流れ星のように細い光がスーッと伸び、浮遊しているデブリに当たった瞬間、暗闇に白い火花が散る。
突然、パンッ! と左方から爆発音がした。
予期せぬ衝撃で機体が揺れ、ソフィアは「キャッ!」と小さく悲鳴をあげる。
どうやら、たまたま近くにあった障害物に攻撃が当たったらしい。ソフィアは汗を拭う間もないまま、新たに放ってきた無数の光から逃げ惑う事しかできなかった。
(障害物に当たった光が弾け散ったり、流れ星のように光が伸びるこの攻撃は何? これじゃまるで――)
ソフィアは喉のそこまで出かかっていた言葉を唾と一緒に飲み込んだ。今の攻撃は十四年前にアスガルド近辺に現れた〝L-219〟という〝悪魔〟の攻撃に似ていると思ったからだ。
『ソフィアちゃん! 〝フォルセティ〟にこんな攻撃は搭載されてないはずだよね!? 学園のデータベースにも載ってなかったよね!?』
「えぇ、なかったわ! 〝フォルセティ〟も私達の機体と性能は同じはずなのに……。何なのよ、この攻撃は!?」
ソフィア達はそこら中を逃げ回っていた。攻撃を躱すことに精一杯で、深く考える余裕はなかったのだ。
しかし、〝フォルセティ〟が放った光がすぐ近くまで迫っていたので、ソフィアは悔しそうに舌打ちをした。
「バリュアブルスカート、展開! フォトンソードに装備させる!」
ソフィアは腰回りに装着していた装甲をフォトンソードに合体させ、光を薙ぎ払った。
刀身に触れた瞬間、パンッ! という一際大きい爆音が聞こえてきた。そのせいで機体が弾き飛ばされ、ソフィアは身体を前後に大きく揺さぶられてしまう。
「キャアッ!」
コックピット内に機体が損傷した時の警告音が鳴り響いた。モニターには〝アストランティア〟の損傷箇所を報告する表示がなされている。どうやら、今の攻撃でバリュアブルスカートとフォトンソードの大部分が大破してしまったらしい。
『うぅ〜、僕まで目が回ってるような感覚がする〜。気持ち悪いけど、身体のない僕でこんな感覚になってるんだったら、ソフィアちゃんはもっと辛いって事だよね……』
ソフィアは返事をする余裕はなかった。背後から攻撃されたせいでシートベルトが体に食い込み、内臓が圧迫されている感覚がする。
程なくして熱い胃酸が込み上げてきた。だが、ヘルメットの中で吐瀉物をぶちまけたくなかったので、ソフィアはギリギリの所でなんとか耐える。
「っ……いい加減返事をしなさいよ、ヘリオス! 貴方は訳もなくこんな事をする人じゃないでしょう!? 戦闘行為は止めて!! 一言でも言いからなんか言いなさいよ!!」
ソフィアが生理的な涙を滲ませながら、〝フォルセティ〟に乗るヘリオスに向かって大声で訴えかける。すると、〝フォルセティ〟側からようやく反応があった。
「ヘリオス、無事なの!?」
ソフィアはモニターに飛びつきそうになったけれど、ヘリオスはそれどころではない様子だった。
『ロスヴァイセ、早く逃げろ……うっ――』
ヘリオスが激しく咳き込み始めた。話す間も無く〝フォルセティ〟の眼光がギラリと光り、機体の背後に光の球体が六つ浮かび始める。
ソフィアの額から汗が流れ落ちた。光の球体はバチバチと音を立て、エネルギーを溜めているようだった。球体が大きくなっていく度に〝フォルセティ〟が雄叫びをあげている。
その姿を見て、ソフィアはまた〝L-219〟の姿が脳裏に過った。けれど、あれはヘリオスが操縦するヴァルキリーなのだ。〝悪魔〟なんかではない。そのはずなのに、どうしても〝L-219〟と同一視してしまう。
「えっ……? どうして〝アストランティア〟が動かないの!?」
〝アストランティア〟のモニターに『WARNING』と表示された。どうやら、先程の攻撃で駆動系に障害が生じてしまったらしい。ガチャガチャと操縦桿を弄っても、動かなかった。
「こんな時にどうして!? 一体、どうなってるのよ!?」
コックピット内は危険を知らせる警告音が鳴り続けている。遂には『前方に高熱源反応あり!』と表示がなされてしまった。これにはアメリアも焦りを隠せない。
『ソフィアちゃん、早く下がって! あんなのに飲まれたら、身体が一瞬で蒸発しちゃうよ!』
「わかってるし、さっきからやってるわよ! けど、操縦桿が固まっちゃって動かないの!」
今度は力一杯、操縦桿を引っ張ってみた。
だが、ロックが掛かってしまっているのか全く動かない。システムの方を何度も弄ってみても、『ERROR』と表示されるだけで、何が原因で動かなくなってるのか分からなかった。
「どうして、いきなり動かなくなっちゃったのよ……」
苛立ちと焦りで頭が真っ白になる。何をやっても動かない事に絶望したソフィアは拳を自分の腿に思いっきり叩き付けた。
『ソフィアちゃん、前!!』
〝フォルセティ〟から〝アストランティア〟に向けて、エネルギー波が一直線に放出された。モニターが光で真っ白に染まる。
(あぁ……私、本当に占いの通りに死んじゃうんだわ。イグニス君、助けて――)
ソフィアが死を覚悟した瞬間、見覚えのある赤いヴァルキリーが割り込んできた。両手を〝フォルセティ〟に向け、手の中心に備わっていたレンズから赤いレーザーを繰り出す。
威力は互角なのか、白と赤の光線が四方八方に飛び散り、そこらじゅうで火花が散っていた。
まるで、打ち上げ花火の最中にいるような光景を目の当たりにしたソフィアは、呆然としながら「い、生きてる……?」と言葉にしていた。
「よぉ、ソフィア。今、死んじゃうかもしれないって思っただろ?」
イグニスの声を聞いたソフィアは思わず安堵の溜息が出たのだった。
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