グルヴェイグVSフォルセティ

第45話 暴走

 少し遠くに見える射出口からは何も見えない暗い宇宙が広がっている。もう何度も授業で宇宙に出ているのに予期せぬ戦闘があったせいか、操縦桿を持つ手が震えてしまった。


「卒業したら〝悪魔〟との戦闘なんていくらでもあるのに、今から震えててどうするのよ……」


 ソフィアは気合を入れる為に自分の頬を強めに叩いたが、操縦桿を強く握っても微かに手が震えてしまう。


 これは武者震いだと自分に言い聞かせようとしていると、『ソフィアちゃん! 今日は僕がいるから大丈夫だよ!』とアメリアが声をかけてくれた。


『僕、宇宙に出るのは何気に初めてかも! いつかソフィアちゃんと〝アストランティア〟に乗って、他の宇宙船に観光しに行くのも良いかもしれないね!』

「でも、その前にリハビリを頑張らないと駄目なんじゃない? まだ手足の自由が効かないんでしょ?」

『うーん、そこはソフィアちゃんのオーブの中に入ってた人が、リハビリを頑張ってくれてるから大丈夫だよ!』


 ソフィアは「もう、いつも人任せなんだから……」と呆れたように溜息を吐く。『人には得意不得意があるんだから、こういうのは運動が得意な人に任せれば良いの!』とアメリアがすかさず反論してきた。


『という事で、旅行の計画を立てようよ! 勿論、イグニス君達も一緒にね!』


 アメリアの提案にソフィアは目を丸くして驚いた。

 

「ふ、二人で行くんじゃないの?」

『旅行は人数が多い方がいいじゃん! それに楽しい事は多い方がいいでしょ!』

「それは、そうだけど……」


 ソフィアはゴニョゴニョと声を発したのだった。


《システムオールグリーン! 〝アストランティア〟発進どうぞ!》


 システム側からのアナウンスにソフィアは慌ててヘルメットを装着し、操縦桿をしっかりと握る。アメリアが緊張を解してくれたお陰で、手の震えはなくなっていたのだった。


「ソフィア・ロスヴァイセ! 〝アストランティア〟出ます!」


 カタパルトから〝アストランティア〟が射出される。急激にかかるGに顔を歪めながらも、操縦桿だけは手放さないように握りしめていた。


 準備完了の合図を送った後、続けて〝フォルセティ〟もカタパルトから射出された。スラスターを軽く吹かし、〝アストランティア〟に向き合う。ヘリオスも準備完了の合図を送ると、モニターに『READY』と表示がなされた。


 ここまではいつも通りの決闘の流れ。だが、ソフィアがすかさず『SURRENDER』を選択する。システム側が数秒フリーズした後、ヘリオスの名前の下に『WIN』と表示されたのだった。


「……ちょっと、さっきから黙ってないで何か返事をしなさいよ」


 ヘリオスは何も喋らなかった。〝フォルセティ〟も微動だにせずに沈黙し続けている。システムの故障を疑ったが、ちゃんと正常に作動しているようだった。


「ヘリオス、聞こえてる? システムは問題なさそうだけど、ヴァルキリーの駆動系に問題でも出たのかしら……」


 心配したソフィアが〝アストランティア〟を操縦し、〝フォルセティ〟にゆっくりと近付いていく。輸送艦に連れて戻ろうと、手を伸ばした所で〝フォルセティ〟の目が赤く輝き始めた。


『ソフィアちゃん、危ない!!』


 突然、アメリアが金切り声をあげた。驚いたソフィアは反射的に操縦桿を手前に引いて距離を取る。


 一瞬、カメラのフラッシュが焚かれたように視界が真っ白になった。チュインッ! という聞き慣れない音がしたので、急いで背後を振り返ってみる。


 すると、離れた場所で待機していた輸送艦の一部が焼け焦げ、熱に溶かされたような大穴が開いていたのだった。


「今、攻撃したの? 何が起こったのか全然見えなかった……」


 ソフィアは顔面蒼白になった。全身から冷や汗が吹き出て、指先が冷たくなっていく感覚がする。アメリアの忠告がなければ、今頃どうなっていた事か――。


「ヘリオス、一体どうしちゃったのよ! 私の声が聞こえてたら返事をしなさい!」


 ソフィアは必死に呼びかける。だが、ヘリオスは先程と同様に沈黙したまま、次の攻撃に入ろうとしていた。

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