第40話 前夜祭①
「いらっしゃい、いらっしゃい! 祭りといえば、アマテラス産の醤油で香ばしく焼いたイカ焼き! 一本、3ドルだよ!」
「ノースユナイテッドで話題のタコスはいかが!? カリカリの生地に挟んだ野菜とお肉を一緒に摂れるから、女性にも大人気だよ!」
アスガルドのメインストリート沿いに屋台がズラリと並んでいた。行き交う人々の面々を見てみると、いろんな人種の人間がひしめき合っている。どうやら、ここにいる人達の殆どは他の宇宙船から遊びに来た人達らしい。
あまりの人の多さに二人は圧倒されていた。
「うっわ、すげぇ人。こんな人混みの中を進んでいくのか」
「私も噂には聞いてたけど想像以上だわ。このままだとはぐれちゃいそう」
ソフィアがモジモジとしながら、チラッとイグニスの顔色を伺ってきた。何事かと思ったイグニスは彼女の心に意識を集中させる。
『イグニス君と手を繋ぎたいな。でも、恥ずかしいって断られちゃうかも……』
イグニスは少し考えた後、彼女に手を差し出した。
「ほら、早く行こうぜ。この多さだとはぐれちまうだろ?」
「う、うん! 私、林檎飴を食べてみたい!」
「林檎飴か。丁度、あの屋台で出してるみたいだから覗いてみるか」
ソフィアの頬が一気に桃色に染まった。「えぇ、早く行きましょ!」と嬉しそうにイグニスの手を取る。
(なんか調子狂うな。けど、これくらいで喜んでもらえるなら、まぁいいか)
喜んでもらえて嬉しかったが、手に伝わる女の子の手の感触と暖かさに、イグニスはドキドキが止まらなくなってしまった。
◇◇◇
「わぁ〜、すっごく綺麗! これがりんご飴なのね!」
ソフィアの手には拳大くらいの林檎飴が握られていた。しかし、どう食べ進めれば良いのか判らず、いろんな角度から林檎飴を眺めてばかりいる。
「思い切って齧ってみれば良いんじゃないか?」
イグニスは手に持っていた大きな揚げ煎餅をバリッと頬張ると、ソフィアは困ったような表情になった。
「だって、こんなに綺麗なんだもの。食べるのが勿体ないわ」
「綺麗でも食べ物なんだからさ。食べないと腐っちまうぞ?」
「それはそうなんだけど――って、ちょっと! 勝手に齧らないでよ!」
イグニスはソフィアが持っていたりんご飴に許可なく齧り付いた。ガリガリと咀嚼すると、林檎の甘酸っぱい味と飴の甘さが絶妙にマッチしていて、とっても美味しく感じられた。
「うん、初めて食べたけど美味いな! ソフィアも食ってみろよ。なかなかいけるぞ」
すると、ソフィアが顔を真っ赤にして、「そ……そのまま齧って良いの?」と聞いてきたので、イグニスは「勿論」と答えた。
「じゃ、じゃあ……いただきます」
ソフィアは恐る恐る口を開け、林檎飴の表面を一口齧ってみる。
パリパリとした飴の食感に不思議そうな顔をしていたが、肝心の林檎を齧っていなかったらしく、もう一口齧ってみると、ソフィアは目をキラキラと輝かせ始めたのだった。
「すっごく美味しい! 飴の甘さと林檎の甘酸っぱさがここまで合うだなんて! 最初に考えた人は天才ね!」
「だよな! 違う店でも林檎飴を出してるみたいだし、後でマリウス先生とニコの分も買って帰ろうかな」
何気なくニコの名前を出してしまったが、気付いた時には既に遅く、「ニコって誰? 初めて聞く名前ね」とソフィアに突っ込まれていた。
「あぁ、そういえば言ってなかったっけ? ニコはマリウス先生のオーブの中にいる子なんだ。俺達よりも幼い子供の男の子って感じの子だよ」
イグニスが説明すると、「へぇ、そうなのね。初耳だわ」とソフィアは目を丸くしながら頷いていた。
「そういえば、マリウス先生って女性から凄く人気のある先生だけど、プライベートは謎に包まれてるのよね。あの人、彼女とか奥さんがいたりするの?」
ソフィアの疑問にイグニスは怪訝な顔に変わる。
幼い頃からずっと一緒にいるが、特定の恋人がいるという素振りは見せた事がなかったのだ。
「うーん、いないんじゃないか? 小さい頃からマリウス先生と一緒に生活してきたけど、そんな話は聞いた事がないし。過去にいたかもしれないけど、そもそも話題に上がる事すらなかったなぁ」
「そうなの? イグニス君でさえ分からないなんて、ますますミステリアスな先生ね。もしかしたら、もう結婚してる可能性があるんじゃない?」
ソフィアの言葉にイグニスは軽く吹き出してしまった。
「いやいや、流石にそれはないって! もし結婚してたら、マリウス先生と奥さんの三人で暮らしてるはずだし!」
「うーん、確かにそれもそうよね……」
ソフィアが悩んでいると、後ろから「ちょいと、そこのお二人さん」と狐の面をした銀髪の背の高い男性が話しかけてきた。
「何か悩み事ですかい?」
「え? いや、悩みって程じゃ……」
イグニスが断ろうとすると、狐の面をした男がペラペラと喋り始めた。
「恋愛に仕事、金運から少し先の未来まで! アマテラスで人気を博した占い師・お銀が占いますぜ! さぁさぁ、どうぞこちらに来て下さいな!」
イグニスとソフィアは互いに顔を見合わせた。
「どうする? 俺、占いなんて興味ないんだけど」
「せっかくだから行ってみましょ。時間はまだまだあるんだし、占いって女の子に結構人気なのよ?」
イグニスは「へー、そうなのか……」と戸惑いつつも、男性の後ろをついていった。
お店の前に置かれた安っぽい看板に『あなたに起きる未来を視ます』と書かれていた為、イグニスは疑うような眼差しで、お銀の背中を見つめてしまった。
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