第37話 アメリアの才能
イグニスが〝アストランティア〟を見て驚いていると、ソフィアが困ったように眉を下げた。
「実は退院する前、マリウス先生がお姉ちゃんを訪ねてきたの。ずっと学校を休んでたお姉ちゃんの事を気にしてくれてたみたいで、お見舞いに来てくれたんだけど……」
キャットウォークを歩きながらソフィアの話を聞いていたが、なんだか含みのある言い方だった為、イグニスは無言のまま首を傾げる。
〝アストランティア〟の前まで来ると、「こんな事になっちゃったの……」とげんなりとした様子で続きを話してくれた。
『もうっ、二人だけでイチャイチャしちゃって! 僕もイグニス君の事が好きなの忘れてない!? ソフィアちゃんだけズルい! 僕もソフィアちゃんの身体を借りてデートがしたいよぉぉっ!』
アメリアが〝アストランティア〟の姿で自由に喋っているのを見て、イグニスはポカンと口を開けてしまった。
この前はアメリアが開発したという〝自立支援プログラム〟を使って、オーブだけで機体を動かす機能を見せてもらったが、喋る機能は備わっていなかったはずなのだ。
なのに、今の〝アストランティア〟はペラペラと喋り続けている。これは一体、どういうことなのか――。
(そういえば、ニコは〝ヒルディスビー〟を介して自由に喋ってるよな。けど、ニコはパイロットがいないと機体を自由に動かせないはずだしなぁ……)
イグニスは〝アストランティア〟を観察しながら思考を巡らせる。
プログラミングは専門外なので詳しくは分からないが、どうしてこうなったのかだけは推測できた。
「マリウス先生が〝アストランティア〟に、何かのプログラムを組み込んだのか?」
ソフィアは「えぇ、そうなの……」と疲れたように頷いた。
「お姉ちゃんが言うには、『僕とマリウス先生、とっても話が合うんだ〜! 僕の話について来れるのはマリウス先生が初めてだよ〜!』って、興奮気味に話されてね……。〝アストランティア〟と新調したオーブを貸して、戻ってきたらこんな事になってたの……」
イグニスはソフィアの隣で、「あー、成程ね」と苦笑いするしかできなかった。
マリウス先生はヴァルキリーの操縦に加えて、プログラミングも得意だ。学園でもパイロット科とプログラミング科の授業を受け持っているくらいの腕前と知識を持っている。
恐らく、お見舞いに行った時にアメリアから〝自立支援プログラム〟の話を聞いたのだろう。
興味を持ったマリウス先生がアメリアに対し、僕の作ったプログラムと交換してみないか? と申し出た……そんな所だろうか。
「でも、これって凄い事なんじゃないか? パイロットがいなくてもオーブだけでヴァルキリーを動かせるなんて、慢性的な人手不足を解消できる画期的なシステムじゃないか」
「確かに考え方によっては凄い事なのかもしれないんだけど、私にとってはすっごく迷惑なのよ……」
イグニスがきょとんとした顔で「迷惑? なんで?」と聞き返すと、ソフィアは〝アストランティア〟を睨み付けた。
「お姉ちゃんがね、ずーっと私に喋りかけてくるの! 私がいない時にもブツブツと独り言を呟いてるみたいで、〝第三格納庫〟にはオバケが出る! って、研究員達の間で噂になってて困ってるのよ」
ソフィアの言い分に対し、『え〜? ソフィアちゃんが構ってくれないのが悪いんだよ〜?』とアメリアが悪びれる様子もなく言い放つ。
『ソフィアちゃんがイグニス君とデートに行くって聞いてから、気が気でないんだも〜ん。将来的にはオーブに発声機能を付けて、とことんソフィアちゃんとイグニス君の仲を邪魔しちゃうんだから!』
アメリアの宣言を聞いたソフィアは、「もう好きにして……」と疲れたように肩を落としたのだった。
『ねぇねぇ〜! それより、早く本題に入ろうよ! 先ずはイグニス君とイグニス君のパパの二人で、フルシンクロのお手本を見せて欲しいな〜!』
アメリアの提案を聞いたイグニスは「そうだな。ソフィアもそれで良いか?」と聞く。「えぇ、勿論」と許可を貰ったイグニスは、〝アストランティア〟のコックピットに足をかけたのだった。
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