第29話 ボランティア活動④

 ソフィアとヘリオスが集めたゴミを全て吸収した後、〝血液の悪魔〟は触手を勢い良くイグニスの方へ伸ばしてきた。


『イグニス!』

「わかってる!」


 イグニスは集めたゴミを盾代わりにし、距離を取る。


 〝血液の悪魔〟は鉄屑を貪欲に吸収した後、身体の形を変化させていった。


 最初は小型ポッドのような姿に。けれど、これではないというように姿形を変え、次に形作ったのは小型航行船。その後も何回か姿を変化させ、最終的に形作ったのはヴァルキリーだった。


「アイツ、吸収した物の形をとれるのか!?」


 イグニスが驚いていると、突然、二時の方向からフォトンライフルを使った攻撃があった。


 モニターを確認すると、〝フォルセティ〟がフォトンライフルを構えながら飛んでいた。この位置では巻き添えをくらう可能性があった為、イグニスは〝グルヴェイグ〟を操縦し、高く飛び上がる。


 〝フォルセティ〟が何回か〝血液の悪魔〟に向かって攻撃を行ったが、敵にダメージを与える事はできなかった。


 敵は攻撃が当たる直前、身体に穴を開けて攻撃を躱したのだ。今はヴァルキリーの形をとっていても、身体が液体である事のメリットをフル活用しているようである。


「チッ! やっぱり、そう簡単には倒させてくれないか!」


 ヘリオスの表情が厳しくなる。敵の不意を突こうと先制攻撃を行ったせいで、〝フォルセティ〟が真っ先に敵にロックオンされてしまったようだ。


『ギ……ギギ……』


 耳障りな声が聞こえた後、敵の背中から触手が飛び出してきた。触手の先はヴァルキリーのようにゴツゴツとした五指に分かれ、〝フォルセティ〟に狙いを定めて追いかけ始めた。


 まずいと感じたヘリオスはすぐに距離を取る。

しかし、触手による追撃は止まらず、逃げ回る羽目になってしまった。


「このままだと追いつかれるのも時間の問題だわ! なんとかしてこっちに敵の意識を向けさせなきゃ!」


 ソフィアは〝シューティングスター〟という武器を選択した。腰に装着しているスカートの装甲から四方が鋭利に尖った飛び道具を三つ取り出した後、オーブのエネルギーを纏わせ、触手に向かって投げ付けたのである。


『ギッ!?』


 〝フォルセティ〟を追っていた触手が斬られた事で、敵の動きが止まった。


「こっちへ来なさい! 私が相手になるわ!」


 ソフィアは自分の思惑通りになったと笑顔を見せた。


 触手が〝アストランティア〟に向かって伸びていく。しかも運が悪い事に進行方向に障害物があったせいで、触手の先が更に枝分かれしてしまい、ソフィアは無数の手に追われる事となってしまった。


「なんなのよ、コイツ! 授業でもこんな〝悪魔〟がいるなんて、習ってないわよ!」


 ソフィアは文句を言いながら、操縦桿をグッと押し込んだ。


 背中に背負っていた長剣に手を伸ばし、触手に追い付かれそうになったら即座に叩っ斬っていたが、刃は溶かされてボロボロになっていった。


「クソッ、どうすればいいんだ!? 遠距離からの攻撃も躱されるし、物理的に攻撃しても武器が保たない! こんな奴を相手にどうやって倒せば良いんだよ!?」


 イグニスは操縦桿を強く握り締め、焦りながら言う。


 すると、父さんが『仕方ない。こうなったらやるしかないか』と意を決したように呟いた。


「何をやるんだよ?」

『フルシンクロするぞ。オーブとパイロットの同調率を最大まで上げて〝グルヴェイグ〟の隠された能力を引き出すんだ』


 聞き慣れない単語にイグニスは「フルシンクロ? それに〝グルヴェイグ〟の隠された能力だって?」と聞き返していた。

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