第28話 ボランティア活動③
気が付けば、イグニスは〝グルヴェイグ〟を器用に操縦し、〝アストランティア〟と〝フォルセティ〟に向かって土下座をしていた。
『イ、イグニス!? ヴァルキリーで土下座するパイロットなんて初めて見たよ!?』
驚いたという絵文字付きのメッセージがニコから送られてきたが、今のイグニスは二人に謝る事しか頭になかった。
「い、いきなり何よ……」
まさか、ヴァルキリーを使って土下座してくるなんて思わず、ソフィアとヘリオスがモニター越しに顔を見合わせる様子が映し出されている。
イグニスは意を決して、鼓膜がビリビリと震えるくらい、声を張り上げ始めた。
「ごめん、二人共! 実は俺、死骸を回収するのが嫌で鉄屑ばっかり集めてたんだ! だから、俺が回収したゴミの殆どは鉄屑だと思う! 結局、俺が一番迷惑かけてるんだ!」
イグニスが正直に告白すると、二人はキョトンとした顔に変わった。
「つまり、イグニスが回収したのは……」
「分別しなきゃいけない鉄屑ばっかりって事?」
二人の言葉にイグニスは、「はい、そうです……」と小さな声で肯定したのだった。
ソフィアとヘリオスは無言のまま顔を見合わせた後、どちらかともなく小さく笑った。
「そんな気にするなって。最初は合計で六十トンだったんだぞ? 十トンくらいすぐに片付くだろ」
「そうよ、イグニス君。三人でさっさと片付けましょ。それでも罪悪感を感じるなら、昨日の夜に貴方が仕込んでくれたビーフシチューを三人で頂くっていうのはどうかしら?」
ソフィアの提案にヘリオスは目を丸くしていた。
「噂に聞く手料理ってやつか?」
「えぇ、そうよ! イグニス君の料理は最高に美味しいの! 本当は私の為に作ってくれてたんだけど、特別にヘリオスにも食べさせてあげるわ!」
えっへん! と胸を張るソフィアを見て、自分が作ったわけじゃないのになぁ……とモニターを見つめながら、イグニスは苦笑いしてしまった。
「悪いな、二人共。本当に助かるよ」
「気にするなって。助け合うのが仲間だろ?」
ヘリオスの言葉にイグニスは胸がジン……となってしまった。
「あぁ、そうだな!」といつものように笑顔を見せると、ヘリオスも一緒に微笑んでくれた。
「そうと決まれば、さっさと片付けよう。これが終われば、イグニス特製のビーフシチューが食べれるんだ。もう一踏ん張り――」
ヘリオスが二人に声をかけた直後だった。
突然、コックピット内に警告音が鳴り響いたのだ。
レーダーには無数の赤い点が表示されている。
しかし、どこにも敵の姿が見えなかったので、イグニス達は戸惑ってしまった。
『どうした!? 敵が現れたのか!?』
「そうみたいなんだけど、今回はレーダーがちゃんと機能してるのに敵の姿が見当たらないんだ!」
それを聞いた父さんは考えた末に『もしかして、回収したゴミの中に潜んでるんじゃないか?』と言ったので、イグニスは大きく目を見開く。
「皆、気を付けろ! 敵はゴミの中に潜んでるぞ!」
イグニスが叫んだ瞬間、集めたゴミの中から何かが勢いよく飛び出してきた。
「避けろ!」
ヘリオスの指示で素早く散開する。イグニスは離れた所から様子を伺っていると、ゴミから滲み出た銀色の雫が一カ所に集まり始めていた。
『あれは〝悪魔の血〟だな』
父さんが気味悪そうに言う。銀色の雫が一つにまとまった所で、液状の化物は触手のようなものを何本も伸ばし、イグニス達が集めた鉄屑を飲み込もうとしていた。
「なんなんだ、あれは……」
ヘリオスはライフルを構えたまま、いつでも反撃ができるように警戒していた。ソフィアは背中に背負っていた長剣のグリップを握り、反撃に備えている。
「ハハッ……。RPGゲームに出てくるスライムっていう雑魚敵みたいだな」
「簡単に倒されてくれる相手だったら、何も問題ないんだがな」
仮にこの敵を〝血液の悪魔〟と呼称しよう。
〝血液の悪魔〟は鉄屑を取り込みきれなかったのか、複数箇所から鉄パイプのような突起物が突き出ていた。
しかし、それも数秒経つと鉄屑達が身体に吸収されていった。どうやら、あの触手に触れると跡形もなく溶かされてしまうらしい。あれに触れてしまえば、命の保証はないだろう。
イグニスの視覚を通じて状況を把握した父さんは『本当に……気味の悪い不思議生命体だな』と嫌悪感を露わにしたのだった。
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