第23話 後日談

「こえ、カサカサ……。喋りづらい……」


 その後、アメリアは自分の身体に戻ってリハビリに励む事となった。


 長年入れ替わっていた影響で声が全く出なかったので、会話をする時はキーボードを使って意思疎通を図ろうとしていたが、リハビリにならないという理由でソフィアにキーボードを没収されていた。


「あ……あぁ……。ゾブィアぢゃぁぁん……」


 アメリアが悲しそうに車椅子に乗ったまま手を伸ばす。しかし、ソフィアは「そんな顔しても駄目!」と頑なにキーボードを渡そうとはしなかった。


『あの姉妹、すっかり元気を取り戻したみたいだな』

「うん。ソフィアの奴、一人でいる時はずっと暗い表情だったから、アメリアが元に戻って本当に良かったよ」


 ソフィアの心の中に巣食っていたわだかまりはすっかり解けたようで、心から笑う姉妹の姿にイグニスはホッと胸を撫で下ろしていた。


『ちなみにお前はどっちが好きなんだ? ソフィアか? それともアメリアか?』


 いきなり、父さんが変な質問を投げかけてきたので、イグニスは「ど、どういう意味だよ?」と驚く。


『そのままの意味だよ。あの二人、お前に好意を抱いてるぞ。もしかしたら、近いうちに何かあるかもな』


 そう言って父さんは笑っていたが、一方のイグニスは瞬きをしながら、「……好意?」と素っ頓狂な声をあげる。


「いやいや、あり得ないって! それにあの二人から、そういう類の気持ちは一切感じなかった! 父さんの勘違いじゃないの!?」

『別に適当言ってるわけじゃないぜ? 今回は心を読まなくてもなんとなく分かるしな。特にお前の能力はムラがある。それはこれから鍛えていくしかないわけだが……』


 父さんが意味あり気な間をとった後、『ま、息子がモテてる姿を見るのは悪くないな!』と笑い始めたのだった。


「ったく、なんだよ。調子狂うなぁ……」


 イグニスはブツブツと文句を言いながらも、視線は二人の方へ向いていた。


 女の子らしい服装が好きで面倒見の良い心配性なソフィア。ボーイッシュな服装が好きな底抜けに明るい天才肌のアメリア。二人に共通して言えるのは、笑顔がとても可愛いという所だ。


 特にソフィアに抱き付かれた時の(中身はアメリアだったが)感触が忘れられず、今思い出しただけでも顔が真っ赤に染まってしまう。


「もう……変な事を言わないでくれよ……」


 二人を異性として意識してしまったイグニスは両手で顔を覆い隠したのだった。

 

◇◇◇


 イグニスが退院してから二週間後――。

アークス高等専門学園に戻ったイグニスは、ソフィアに模擬戦を申し込んだ。


 イグニスは〝グルヴェイグ〟を操縦し、ソフィアは〝アストランティア〟を操縦して模擬戦に挑んでいる。


 所有しているヴァルキリーを使う時は模擬戦用の武器を用いて、背中に着けているアンテナをへし折った方が勝ちというルールが設けられていた。


「おいおい、どうなってんだ? イグニスの奴、シンクロ率が90%まで跳ね上がってるみたいだぞ」

「父親が乗ってたヴァルキリーって旧型だろ? システムはアップデートしてくれたってイグニスが言ってたけど、操縦が今のヴァルキリーと比べて難しいんじゃねぇか?」


 ニュースで出ていたヴァルキリーを見たいが為に、クラスメイト達以外にも教職員や各学年の生徒達が食堂に集まってザワザワと騒いでいた。その中にはマリウス先生も混じり、イグニスが所属するAクラスの皆と一緒に模擬戦の鑑賞を行っている。


 かつて英雄が操縦していたヴァルキリーと主席生徒が設計したヴァルキリーの戦いが、モニターの向こうで繰り広げられているのだ。滅多にない光景に皆が興味津々だった。


『いつまで隠れているつもりだ!?』


 イグニスは模擬戦用の長剣を選択し、〝アストランティア〟が隠れている障害物に向かって飛び出した。


 イグニスはそのまま障害物ごと切りつけようと長剣を振り下ろす。しかし、ソフィアも待ち構えていたように長剣を手に持ち、〝グルヴェイグ〟の攻撃を受け止めていた。


『やるじゃない、イグニス君!』

『へっ! 〝グルヴェイグ〟の火力はこんなもんじゃねぇよ!』

 

 イグニスが操縦桿を強く握り締めると、振り下ろす力が更に加わったのか、地面が割れて〝アストランティア〟が少しずつ沈み始めた。


『くっ……なんて力なの!?』


 これにはソフィアも苦い顔になった。


 〝アストランティア〟は〝グルヴェイグ〟に比べて、しなやかで機体が軽い。だから、近距離戦を何より得意とする〝グルヴェイグ〟とは相性が悪かったのだ。

 

 長剣同士が擦れ合い、火花が散る。イグニスは〝アストランティア〟の背中に着いているアンテナを狙いを定め、長剣を真横に振り切った。


 ソフィアが『あっ!?』と声を漏らす。


 アンテナの先端が〝アストランティア〟の足元に落ちた瞬間、モニターにイグニスの名前と『WIN』という文字が表示されたのだった。


 イグニスはコックピットの中で『よっしゃあっ!!』と声を張り上げた。学園中でイグニスの健闘を讃えて拍手が沸き起こっていた。


 ソフィアも今回ばかりは完敗だと思ったのか、ヘルメットを外し、機体から降りる様子が映し出されていた。

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