第21話 戸惑うソフィア

「イ、イグニス君。誰と喋ってるの?」

「あぁ。今、アメリアと喋ってるんだ」

「え? お姉ちゃんと?」


 ソフィアは戸惑った。どこを探していてもアメリアの姿は見当たらず、次第にソフィアは気味が悪いというような表情に変わっていった。


「違う違う。アメリアはオーブの中にいるんだ」

「オ、オーブの中……?」


 イグニスがソフィアのオーブに指をさすと、今度は訳がわからないという顔に変わった。イグニスは種明かしをしようと〝アストランティア〟に向き直る。


「アメリア。〝アストランティア〟を起動させてくれるか?」


 手に持っていたオーブに向かって呼びかけると、『うん、わかった!』と元気よく答えてくれた。


 イグニスの呼びかけ後、オーブがぼんやりと輝き始める。


 すると、エネルギーを感じ取ったのか、〝アストランティア〟の目に光が宿った。胸部に設置されていたコックピットの扉がゆっくりと開くのを見たソフィアは驚いて目を丸くする。


「ア……アストランティアが動いた?」

「アメリアが力を貸してくれたんだ。ほら、ソフィア」


 イグニスが手を差し伸べる。ソフィアは少し迷っているようだったが、最終的にイグニスの手を取って、〝アストランティア〟のコックピットへ乗り込んだ。


 ソフィアを操縦席に座らせた後、イグニスは操縦席の後ろから手を伸ばし、システムを操作し始めた。


「えぇっと、確かここに……あった!」


 〝EINHERJARエインヘリアル SYSTEMシステム〟という見慣れない文字を見た瞬間、ソフィアは「何、このシステム? 初めてみるわ……」と怪訝そうな表情に変わった。


「〝エインヘリアルシステム〟って読むんだ。簡単に説明すると、パイロットとオーブの魂を入れ替えるシステムなんだってさ」


 イグニスが〝エインヘリアルシステム〟を選択すると、〝グルヴェイグ〟の時と同様、画面にに三角形の記号と〝WARNING〟という文字が大きく表示された。


「なんなのよ、このシステム。なんでこんなシステムがヴァルキリーに搭載されてるのよ?」


 見た事のない文字がズラッと表示されたのを見て、ソフィアは意味が分からないというように顔を顰めた。


「こんな意味の分からないシステムで、本当に人格を入れ替える事ができるっていうの?」

「それができちゃうんだよね。ソフィアも言ってただろ? ニュースに映ってた時の俺が別人に見えたって。あの時さ、オーブの中で眠ってた父さんと入れ替わってたんだよね」


 突然の告白にソフィアは目が点になっていた。

それから数秒経過した後、「えぇ……ちょっと待って。情報量が多すぎて話がついていけないのだけど……」と珍しく弱気な言葉を吐いていた。


『イグニス。試しにやってみたらどうだ?』


 暫く静観していた父さんが急に話しかけてきた。

「それって、ソフィアとアメリアを入れ替えるって事?」とイグニスが聞き返すと、『そうだ』と返事が返ってきた。


『実際に体験してもらった方が話は早いだろう』

「で、でもさ。そんなことをしたらソフィアが怖がっちゃうんじゃない? さっきまで倒れそうになってたし……」


 イグニスが自分のオーブに向かってコソッと話しかけると、父さんは淡々とした口調で静かに反論してきた。


『俺は助けも呼べないまま、14年間も宇宙空間に一人で放り出されてたんだぞ。それ以上に怖い事なんてあると思うか?』


 イグニスはぐうの音も出なかった。

実際に自分がそんな目に遭ってしまったら、普通の精神状態ではいられないと思ってしまったからだ。


『それに過去を乗り越えたいって言ってだろ? その強い気持ちがあれば大丈夫さ。もし心が折れちまうようだったら、イグニスが支えてやれよ。仮にも同じ釜の飯を食ってるクラスメイトなんだからさ』


 そうはいっても、この提案はイグニスにとっても勇気がいるものだった。


 けれど父さんの言う通り、実際に体験してもらうのが一番だと理解したので、「……や、やってみるか?」と恐る恐る話しかけてみる。


「それって〝エインヘリアルシステム〟ってのを、実際に起動させてみるって事?」


 ソフィアにギロリと睨まれてしまった。


「う……やっぱり嫌だよな。ごめん」


 イグニスが素直に謝ると、ソフィアは少し考えてから「いいわ、やる」と予想外の言葉が返ってきた。


「こんなシステムを起動させたくらいで人格が入れ替わるなんてあり得ないもの。イグニス君はこのシステムでお父様と入れ替わったって言ってたけど、信じられないっていうのが本音よ」


 ソフィアのもっともな言葉にイグニスは「確かにそう思うよな」と苦笑いした。


「それにしても、やっぱりソフィアは強いな。さっきまであんなに震えてたのに」


 イグニスの言葉を聞いてソフィアはキョトンとした後、一気に顔を真っ赤にさせて照れ始めた。


「そ、そんなことないわ! お姉ちゃんがいなくなってから、全部一人でやらなきゃいけなくなっちゃっただけで! 全然、強くなんかないわ!」

「はいはい。それじゃあ、今からやり方を説明するから」


 クスクスと笑ったイグニスはオーブをソフィアに返し、〝エインヘリアルシステム〟の操作説明をしてから、コックピットを出たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る