第17話 親子の衝突
予想外の出来事にイグニスはまたもや頭が痛くなってきた。
「あ……あんな数の報道陣の前で何言ってんだよ! そんな意味不明な事を口に出したら、ただの頭のおかしい人間に見えるだろ!?」
『何言ってんだ。この状況も事情の知らない人から見れば、ただの大きな独り言だろ? それこそ頭のおかしい人間に見えるぞ』
鋭い指摘にイグニスは言葉に詰まった。
『どこで何をしてるか分からないが、今頃、オーブを壊さなかった事を後悔してるだろうよ。それにアイツは性格悪いからな。必ず何かしらのアクションは仕掛けてくるはずだ』
父さんは自信満々の様子で答えていたが、「……それってさ、俺に危害が及ぶって事だよね?」と不信感を抱いたまま聞き返す。
すると、暫く考え込んでいるような間があった後、父さんの口から信じられない言葉が返ってきた。
『……うん、そうとも言えるな!』
な に が そ う と も 言 え る だ 、 馬 鹿 野 郎 が ! !
「もう……なんなんだよ、それ……」
イグニスは絶望し、両手で顔を覆ってしまった。
卒業後の進路は漠然としか考えていなかったが、ヴァルキリーのパイロットとして活躍できる仕事に就職し、アスガルドを救った英雄の息子としてではなく、ただの一般企業に務める人間として平和に暮らす事を考えていたのである。
しかし、自分の人生に影響があるようなトラブルに巻き込まれてしまった以上、想像していた未来が描けなくなってしまったのだ。
父さんは暗い雰囲気を感じ取ったのか、『おいおい、そんな落ち込むなって!』と励ますように声をかけてきた。
『いいか、イグニス。人はトラブルを何度も乗り越えて強くなっていくんだ。現に俺は絶対に家族の元へ帰るんだって信じてたからこそ、十四年ぶりに息子に会えたんだぞ』
「……自分で起こしたトラブルじゃないのに、なんで俺が巻き込まれなきゃいけないんだよ」
怒気を含んだ声音で言うと、父さんは黙り込んだ。
その反応にカチンときたイグニスは「もういいっ!」と感情的に吐き捨て、ベッドから降り立つ。
『お、おい。そんな身体でどこへ行く気だ?』
「腹が減ったから購買に行ってくるだけだよ。冷静になりたいから、暫く放っておいてくれ」
不貞腐れたように言うと、真剣な声で『イグニス』と名前を呼ばれた。
『巻き込んでしまって本当にすまないと思ってる。俺は自分の命を賭けてお前を全力で守り抜くつもりだ。そんな覚悟もなかったら、あんな大勢の人がいる前で大それた事は言わねぇよ』
父さんの言葉を聞いたイグニスは少し考えた後、「ならさ……」と話を切り出した。
「これからは二人で話し合って決めるって約束してよ。俺は父さんともっと話したい。さっきタイミングを逃して言えなかったけど、父さんが見せてくれた夢の続きも見たい。俺達さ、か……家族なんだろ?」
普段、言わないような事を言ったせいか、声が少し震えてしまった。イグニスは顔面が一気に熱くなっていくのが分かり、外の空気を吸う為に急いで病室を出る。
『あぁ、確かにお前の言う通りだな。これからはちゃんとお前に相談するよ』
どこか満足したような声音がオーブから聞こえてきたが、イグニスは聞こえないフリをしたのだった。
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