第7話 父の行方
「ニコ、準備はいいかい?」
『うぅ〜! 本当は攻撃したくないけど、イグニスの為なら頑張る!』
ニコがやけくそ気味に宣言した後、モニターに〝
〝ヒルディスビー〟の手に戦車の砲身を思わせるような見た目の武器が現れる。そのまま目標に向かって構えて撃つのかと思いきや、〝ヒルディスビー〟のスカート部分がパズルのように崩れ落ち、ハニカム状のビットが次々と砲身に装着されていった。
一連の流れを見たイグニスは無意識のうちに「すげぇ、こんな事もできるのか……」と素直な感想を漏らした。
『装着完了したけど、どれくらいの出力で撃つ?』
「まずは出力を40%に調整しよう。〝グルヴェイグ〟を傷付けるわけにはいかないからね。少しずつ様子を見て出力を上げていこうか」
ニコは『わかった!』と返事をすると、砲身に向かってゆっくりとエネルギーが送られていくのが、モニターで確認できた。エネルギーを送られる間隔がだんだんと狭まり、ハニカム状のビットから小さな火花が散り始める。
『エネルギー充填率、38%!』
「了解。イグニス君、衝撃に備えておいてくれるかな。舌を噛まないように気をつけて」
イグニスは「わ、わかった!」と返事をし、操縦席の背もたれにしがみ付いた。
ニコがエネルギーを溜めている間、マリウス先生はモニターに表示された巨大な氷塊をロックオンする。どうやら〝グルヴェイグ〟の上部辺りを狙っているようだ。
『エネルギー充填率、40%! いつでも撃てるよ!』
ニコの台詞と共にマリウス先生がトリガーを引くと、緑色の光線が真っ直ぐに結晶に向かって放たれた。しかし、結晶に直撃したもののエネルギーが足りなかったようで、攻撃が四方に弾かれている。
すかさずマリウス先生は「ニコ、シンクロ率を上げよう!」と声をかけると、ニコは『あいあいさー!』と元気よく返事をした。
出力を上げた〝
イグニスは「やった!」と声を上げる。
マリウス先生はトリガーを引くのを止めて武器を収納し、機体を発進させた。
「さぁ、
厳しい表情をしていたマリウス先生はモニターを拡大し、結晶から上半身だけ剥き出しになった〝グルヴェイグ〟に向かって、コックピットの解錠信号を送る。
(いよいよだ。でも、亡くなっている状態の父さんがコックピットの中にいたら、俺は……)
初めて見る事になるかもしれない人間の遺体にイグニスは恐怖を抱いていた。
搭乗口がゆっくりと開き始める所を固唾を飲んで見守っていたが、予想外の結果にイグニスは目を丸くする事となる。
「ど、どういう事だ?
遺体もなければ、脱出したような痕跡もなかったので、イグニスが困惑したような表情になる。
一方のマリウス先生は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
『マリウス、これって……』
「あぁ、
『それじゃあ、ヒビキは今どこにいるの!?』
「わからない。けど、アスガルドにいないのは確かだ……」
二人にしか分からない会話を聞いたイグニスは痺れを切らし、「あのさ!」と話を切り出した。
「マリウス先生の悪い予想ってなんなんだよ!? 二人だけで理解してないで俺にも教えてくれ! 父さんはどこにいっちまったんだ!?」
マリウス先生は数秒考え込んだ後、「わからない。けど、確実に言える事は一つだけある」と答えた。
「シンラ君は生きてる。
「どういう意味だよ、それ……」
イグニスは理解が追いつかないというような表情にな。
「イグニス君はオーブの中に存在しているのはなんだと思う? 学校では殆どの学生がヴァルキリーを起動させる為の道具としか思っていないだろうけど」
マリウス先生がこのタイミングで質問をするのには何か意味があると思い、イグニスは少し考えた末に「……人間、だと思う」と暗い声音で答えた。
「実際のところは分からないし、オーブがどうやって作られてるのかなんて知らない。でも……俺は人間だと思ってるよ」
「正解だよ、イグニス君。ニコも元々は生身の身体を持っていた人間だし、他のオーブも元々は生きた人間だったんだ。でも――
マリウス先生は首からかけていた緑色のオーブを摘んで見せてきた。
「じゃあ、父さんは――」
イグニスの発言の途中にコックピット内にアラート音が鳴り響く。モニターに視線を戻すと、〝ヒルディスビー〟をぐるっと取り囲むように敵の反応が出ていた。
『マリウス! 〝蝙蝠の悪魔〟に囲まれてるよ!』
「敵の数がやけに多いね。偶然現れたわけじゃなさそうだ。〝グルヴェイグ〟が再起動した時の為に近くで監視してたのかな?」
マリウス先生がシステムを操作すると、コックピットの扉がゆっくりと開き始めた。何をするのか様子を伺っていると、マリウス先生に腕を掴まれ、抵抗する間もなく宇宙空間に放り出されてしまう。
「ちょっ……マリウス先生!?」
「イグニス君は〝グルヴェイグ〟の中で待機してくれ! 僕達は敵を殲滅してくる!」
そう言い残したマリウス先生は近距離専用武器を装着し、敵の群勢に立ち向かっていった。
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