第3章

第19話



  「先日の話、お引き受け致します。

   春日君が、プロデュースをして下さるならば、ですが。」

   

   

 は?

 め、めぐみ、なにを言ってるの。

 

 って、いうか。 

 僕、この睨んでくる人と初対面なんだけど。

 なにも知らされてない状態で、この睨みはちょっとキツい。

 

 「……勝手なことを仰る。」

 

 「そうでしょうか。

  春日君が手掛けてなければ、

  最上さん達の眼に止まることなんてなかったはずです。」

 

 「……それは、否定はしませんが。」

 

 ん。

 

 「ですが、プロジェクトのラインが違います。」

 

 「それ、最上さん達の事情ですよね。

  私と関係、ありますか?」

 

 うわぁ。

 めぐみって、なんていうか、

 大人の男性に笑顔で強気に行くんだよね。

 行成先生はそれで堕ちちゃったし。


 「春日君がプロデュースしないなら、

  先日の話は、無かったことに。」

 

 「……。」

 

 うわぁ、こっち、睨んで来たよ。

 

 「春日さん、でしたね。」

 

 「はい。」

 

 「貴方は、今日、なぜこちらに。」

 

 え。

 

 「あの。

  僕、こちらに所属してるんですが。」

 

 「え゛」

 

 うわ。

 横の繋がり、悪いんだ。

 大丈夫かなこの事務所。

 

 「昨日付で所属しました。

  今のところ、マネジメント契約のみですが。」


 包括契約ではない。

 絃はともかく、いまの僕にそれは必要ない。


 「……なるほど。

  これは、失礼しました。」

 

 「いえ。」

 

 「改めまして。

  最上米久こめきゅうです。

  檜山めぐみさんを担当しております。」

  

 ご丁寧に名刺貰っちゃったけど、

 こめきゅうって、本名なんだ。

 変わった名前だなぁ。


 「……そういうことでしたら、

  こちらからもお願いしたいですね。」

 

 は?

 さっき、あんな難色を示してたのに。


 「外部の方に発注するならば色々難しかったのですよ。

  貴方がうちと契約をしているならば、

  問題の大部分はクリアできます。

  あとは先走っている連中の面子だけですから。」

 

 は、はぁ。

 っていうか、僕の意思、ないの?


*


 「え゛」

 

 「や。

  あはは、絃ちゃん、

  お互い様だよ?」

  

 「だ、だって。」

 

 「……絃ちゃんのせいだよ。」

 

 「え。」

 

 「まぁまぁ。

  私も、知ってる娘がいるほうがありがたいから、

  ちょうどよかったんだよね。


  こんなとこいたって、

  なにしていいか、勝手が分からないしさ。」

 

 「う、うん。」

 

 当人同士が談笑する中で、

 大人二人は困った顔で背中を見つめている。

 

 「……春日さん、

  これは、その、どういう?」


 あぁ。

 駒津さん、困ってるな。

 説明が難しいんだけど、端的に言えば。

 

 「昨日付で、め

  ……檜山さん、も、

  こちらに所属していたようです。」


 「え゛」

 

 ほら、そうなるよね。

 っていうか、この事務所、

 ほんとに横、繋がってないんだな。

 

 「あ、あぁ。

  え、じゃ。」

 

 「そうです。

  feat.で歌ってたのは、檜山さんですね。」

 

 「……なる、ほど。

  最初から、こうなることを見越して。」

 

 んなわけないでしょ。ぜんぶ偶然だって。

 まぁ、違うところに所属されたら大変だったから、

 これはこれで良かったのかもしれない。

 

 って、こんなこと想像できるか。

 

 「おーう。」

 

 え。

 

 「は、

  原田さん、どうして。」

 

 「どうしても何も、

  お前らの親玉に呼ばれてきたんだがな。」

 

 は?

 

 「……っていうか、

  あのとんでもねぇ別嬪さんは誰だよ。

  モデルか? 女優さんか?」

 

 あぁ。

 めぐみを見るの、はじめてか。

 そうなるわな、一度は。

 

*


 「ははは、

  いや、春日君、

  きみ、持ってるねぇ。」

 

 どういうことなんだか。

 

 「だってさ、

  めぐみちゃん、もうちょっとで

  外資系大手に取られそうだったんだよ。」

 

 え゛

 っていうか、一曲しか歌ってない、

 metuberすらないめぐみに、なんで?

 

 「あぁ。

  あはは、そこ、知らないんだ。

  

  ま、それならそれでいいや。

  あとで本人が言うんじゃないの?」


 …… 

 まぁ、そういうものか。

 っていうか、いまの、ただのヒントじゃ

 

 「で。

  きみが気にしてるあたりだけど、

  きみの手下に二人つけたから。」

  

 手下。

 手下って、

 

 「原田さんなら、

  どう考えても僕のほうが手下でしょ。」

 

 「あはは、

  まぁそうなんだけどさ。

  きみの思う通りに作っていいってこと。」

 

 思う通り、ね。

 

 「オレの頃と違うからさ。

  フルアルバムとかいらないわけだよ。

  はっきりいって、最初は、3曲ありゃいいの。」

 

 3曲、ねぇ。

 

 「で、ちょうどいい感じの案件があってさ。」

 

 案件。

 

 「案件っつってもオーディションだけど、

  面白ければ、オレの名前で推薦する。

  そしたら、候補の一つにゃ滑り込むよ。」

 

 ……あっさり言ってくれるなぁ。

 

 「ま、いまは気にしないで、

  metubeあげるつもりで作ってくれていいから。」

 

 つっても

 

 「オリジナル、ですよね。」

 

 カヴァーじゃ、ない。

 いろいろ、ありえない。

 

 「あんだけやってれば、

  隠れて作曲くらいしてるでしょ?」

 

 ……ぐっ。

 

 「ま、君の色にできるなら、

  カヴァーだっていいし、他の人のやつでもいいよ。

  なんなら、オーディション手配してもいいし。」

 

 あぁ。

 そういう手もあるのか。

 

 「じゃぁね。

  オレはこれから、夕方からのライブの打ち合わせだから。

  あ、君らも来る?」

 

 いや、貴方いま、

 こっちに仕事振ったばっかりでしょ。

 

 「あはははは、マジメだなぁ。」


 ……あのねぇ。

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