第14話


 お、わ。

 さっき投稿した動画、もう9万廻ってる。

 やっぱり投稿頻度が安定すると関心も繋ぎ止められるな。


 このくらいになると、

 曲名で検索してもアルゴリズムで上位に来て、

 前の曲とかも連動してオススメして貰えるから、

 一緒に聴いて貰える感じになるなぁ。


 にしても、こんなネタみたいなのに、

 この熱量で反応して貰えるって、

 柚木さん、凄すぎ

 

 「……啓、くん。」

 

 あぁ。

 

 「事情聴取、終わった?」

 

 「……うん。

  ちょっと、説明が難しかったけど。」

 

 豊原さんと、被害にあった娘の接点を隠さないといけなかったからなぁ。

 僕は豊原さんとめぐみに呼ばれた、という一点で凌いだけど。


 「康達はまずいよ。

  明日から、IH予選だよ?」

 

 「……そう、なんだけどさ。

  他に、思いつかなかったし、

  啓くんに先に声、かけられないでしょ?」

 

 あぁ。

 めぐみなりに気を使った結果だったのか。

 

 「……

  警察、相談してみたんだよ。

  事前に。」

 

 「門前払いだったんだね。」

 

 「……

  うん。」

 

 これ、たぶん、正解は、

 

 「行成先生とかが良かったんじゃないの?

  先生経由で警察に入れば対応違うし。」

 

 「あ、あぁー。

  でも、関係ないじゃん。」

  

 「直接はね。

  間接的には押し切れた。」


 押しに弱そうな感じだから。

 陽キャ女子からの。

 

 「……その発想はなかったわ。

  あー、私、ほんと使えねー。」

 

 あはは。

 でも、

 

 「めぐみは、間違ってない。」

 

 「え。」

 

 「僕もさ、直接関係ない、って感じで、

  今回、後手に廻ったから。

  めぐみが現場、乗り込んでなかったら、

  なにもかも、駄目だったと思う。」


 そうなったら、取返しの効きづらい悲劇になったろう。

 Ain_Tさんはまた引き籠ったろうし、

 めぐみだって、心の傷を深めたかもしれない。

 

 「……。」

 

 「トラウマは残りそうだから、丁寧に見てあげて。

  それこそ、僕にはできないから。」

 

 「……

  啓くん、さ。」

 

 ん?

 あ。

 

 「……おう。」

 

 「おつかれ。

  災難だったな、康達。」

 

 何も答えようがないもんな。

 わけもわからず連れてこられただけだから。

 

 「明日試合なんだから、寝ろ寝ろ。」

 

 「はは、そうするよ。」

 

 「あ、彼女、送ってけ。

  夜、遅いんだから。」

 

 「あぁ、うん。

  そうだな。」


 「……。」

 

 ……ふぅ。

 とんでもない夜だよ、まったく。


*


 ……う、は。

 1日経ってないのに18万廻ってる。

 凄いなぁ。

 

 っていうか、編集してる時にも思ったけど、

 柚木さん、歌、ふつうに上手くなってるよな。

 低音の深みが増して、色っぽくバイブしてて、

 ただ耳に触れているだけで心の奥底が揺り動かされる。


 ……

 ひょっとしたら、いけるんじゃないか。

 こんなのを、こんなふうに、歌いこなせてしまえるなら。

 

 神崎菫は無理でも、編曲次第では、

 もうちょっと高いレベルの歌手をぶつけられるかもしれない。

 そうだな、アーティスト路線なら中柳留美とか、愛実とか、

 アクセスチャレンジでは森明日菜とか。

 そしたら、この路線でも、十分、銀の盾が見えるかも

 

 「あー。

  成績表、返すからなー。

  出席番号順に取りに来いよー。


  次の奴、呼ばれる前にもう来てろよ。

  俺がラクだし、早く終わるからなー。」

 

 ……はは。

 変わらないな、あのいい加減さ。


*


 え゛

 

 「地下に流す動画の撮影だって。

  美少女アイドルグループの裏の顔、みたいなやつ。」


 ……それで、あのコスを着てこいと。

 でも、それ、業者だと危ない橋じゃ?

 同意を取らないで

 

 「業者じゃないんだってさ。

  あいつら、ただの学生。」

  

 げ。

 

 「ネット上で知り合っただけ、って感じ。

  リアリティのある裏モノを作って、

  CanMovieアダルト動画投稿サイトとかに上げたかったらしいよ。

  マジで反吐が出る。」

 

 そこは同感だけど。

 

 「顔出ししてない、

  登録者数500~3000人くらいの歌い手を狙って

  囀りとか見て、子どもだと分かったら、

  みたいな感じだって。」

 

 ……クソみたいに卑劣だな。

 っていうか、

 

 「あ、うん。

  女の刑事さんと仲良くなって。

  名刺も貰っちゃった。」

 

 ……こういうとこだよなぁ、めぐみ。

 転んでもタダじゃ起きないっていうか。


 「……

  あー、今日から地獄だぁー。」

 

 何言ってるんだか。

 彼氏の晴れ舞台なのに。

 

 「だってさぁ、暑いんだよー。

  庇とか、ないんだよぅ。直射日光モロだよ?」

 

 あはは。

 めぐみは室内競技クーラーつきだったからなぁ。

 でも、

 

 「吹奏楽部の子なんて、

  その状態で演奏するんだよ。」

 

 「ぅげっ。」

 

 ……はは。

 まったくもう。


*


 え゛

 

 「ゆ、唯?」

 

 「来た。」

 

 来た、って。

 日中にこんなトコいたら、溶ける

 

 「考えた。


  待ってても、啓は、来ない。

  なら、こうするだけ。」


 えぇぇ……。

 一週間くらいは行く予定だったんだけど。

 

 まぁ、いいか。

 来ちゃったものを追い返すわけには。

 

 「母さんの部屋はダメだよ。」

 

 「うむ。

  承知済。」

 

 あ、

 笑ってる、な。

 唯のこんな笑顔を見るのってどれくらい振りだろ。

 

 ……やっぱり、整ってるな。

 寝てないだろうから、ちょっと目が据わってるけど。

 顔、まだちょっと丸いんだけど、

 それはそれでなんていうか、愛らしく感じてしまう。


 ……

 だから、あんなことになっちゃったわけ

 

 え゛

 


  「!」


 

  「っ!?」


 

 ゆ、ゆ、ゆづきさん??

 まさか、家のドアの前で、待ってるとは。

 今日、来るって言ってないのに。

 

 こ、このパターン、

 ちょっと前にも見たな。

 

 「……。」

 

 「……っ。」

 

 う、うわぁ。

 無言でめちゃくちゃ睨み合ってるな。

 この二人、仲、悪いんだよなぁ。


 ど、どうしようか。

 とりあえず、外、暑いし、

 二人とも入って貰うしか

 

 ぶーっ

 

 ん……

 原田さん、から?

 

 ……!?

 

 <昨日の動画、

  伊熊の奴が見たぞ>

 

 Ikuma。

 原田さんのリストの中に入っていた。

 著名音楽賞を三度も受賞している、

 知名度、実力とも揃った超有名プロデューサーの一人。


 天下のIkumaに、よりによってアレを見られたって、

 なんていうか、恥ずか



  え゛っ!!!

 


 「ゆ、柚木さんっ。」

 

 「!?

  な、な、なにっ!


  !!!」




  <明日、君らに直接会いたいそうだ

   どうする?>




襲われそうになっていた底辺歌い手を支えたら、修羅場が待っていた

第1章


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