第13話


 ……

 あっ、た。

 Utaの過去のDM、そのまま残ってた。

 

 ……IDこそ違うが、文面は良く似ている。

 何度も同じことを繰り返してる、ということか。

 

 この段階で警察に相談しても、ほぼ、何もできない。

 特別なコネでもない限り、刑事で立件できる被害がなければ、

 組織を動員して動いてはくれない。まぁ、当たり前だが。

 

 とりあえず、これをコピペして、Ain_Tさんに送っておこう。

 いろいろ危険すぎるので、

 くれぐれも深入りしないようにお願いしておくとして。

 

 ……。

 よし、と。

 

 あ。

 

 「……おはよう、啓。」

 

 あはは。

 まだ、少し気にしてるのか。

 

 「行成先生が叛乱したんだってね。」


 大人しく耐えていた康達の態度豹変に激怒した顧問は、

 愚かにも、康達の起用を止めるつもりだったらしい。

 

 翌日、退部届を出そうとした康達の目の前で、

 新任の副顧問である行成先生が、

 生徒指導であり、上司であるはずの現顧問に向かって、

 練習内容がいかに無知で非合理か、指導者不適格かをさんざんに詰り、

 手を出してきた顧問の腕を取って投げ飛ばした。

 

 「『あんたみたいな無能が

   母校の指導者を騙ってんのは反吐が出んだよ』

  だっけ?」

 

 「……驚いたよ。

  行成先生も俺と同じように黙り続けると思ったから。」

 

 (だから、私もちょっと考えたよ。

  どうすれば、一番いいのかな、って。)

  

 めぐみが、行成先生に向かって

 汚いダサい情けないカッコ悪い保身に走る中身のない大人って最低と

 煽りまくってたことは、いろんな意味で内緒にしとくべきだろう。

 最後の一押し程度の意味しかないだろうから。

 

 「……2年から、レギュラーに4人入ったよ。」

 

 一番大きいのは、MFが2年になったことらしい。

 精確なキラーパスを廻してくれるようだから。

 別にサッカーで食べてくわけじゃないんだろうけど、

 環境が良くなったのはコイツにとってはいいことだろう。

 

 あぁ。

 

 「行成先生に、弱い相手の時とかは、3年を出すように言っといて。

  大会に選手として出場、って言えるし。」


 たぶん、推薦案件も入ってるだろうから。

 でも。

 

 「MFの人以外をね。」

 

 「……啓、

  お前、サッカー、知らんだろ。」

 

 「まったく知らん。

  でも、康達が一番気にしてたのはこの人だろ。」

 

 「……あぁ。

  そう、だ。」

 

 爽やかに悪い顔してるなぁ。

 地味にストレス溜めてたってとこか。

 

 「……めぐみって、

  あんな声、出せるんだな。」

 

 あぁ。

 あれはめっちゃ驚いた。

 明るく抜けるような爽やかさと、愛らしさを兼ね備えた声。


 なにしろずば抜けた容姿だし、舞台度胸もある。

 本人さえその気ならいますぐでもステージ立て

 

 って

 

 「康達、

  お前、彼女とカラオケいったことないの?」

 

 普通に頷くなよっ。

 あぁもう、彼女を持つことの意味、

 分かってないな、コイツ。


 「夏休み、週3でめぐみと逢えよ。

  絶対だぞ。」

 

 「週3、か。

  うーん。」

 

 ……ほんと大丈夫かなぁ、こいつら。


*


 ふぅ。

 ……終わった、な。

 あとはこれをアップロードするだけ、と。


 んーと、

 明日は、終業式か。

 夏休み、ほんとどうしよ。

 

 とりあえず、metubeを開いて、アップロード、っと。

 今回は賭けというか、ネタに近い。

 失敗したらいつでも消すつもりでいないとだな。


 んー、いつもながら、長いなぁ。

 ショート動画とはわけが違うから。


 あぁ。そうだ。

 アップロードを待つ人生有数の無駄時間を使って、

 Ain_Tさんに送っとこう。

 

 <その後、どうなりました?>

 

 うわ。

 速攻既読された。

 

 ぴぽぴぽぴぽんっ

 

 え。

 つ、通話?


*


 ……しまった、な。

 

 「その、止めましたし、

  春日君のメッセージも転送したんですけれど、

  どうしても、行くって。」

 

 ……やっぱり、か。

 思い起こせば、柚木さんの時も、

 わざわさ行かせるような何かがあったんだろう。

 

 あ゛

 

 (う、歌い手だって、し、知られたくない

  が、学校にも、く、クラスの娘たちにも)

 

 「……その娘、

  歌い手だって、周りに話してました?」

 

 「いえ。

  私と同じで、年齢設定違ってましたから。」

 

 ……そっち、か。


 「あ゛」

 

 え?

 

 「め、め、

  めぐみちゃんがっ!」


 ……は?

 

*


 「え、啓?」

 

 お、わ。

 な、なんで

 

 「康達、お前、

  試合だろ、明日から。」

 

 「そうなんだけどさ。

  めぐみに呼ばれちゃって。」

 

 ……あぁ。

 僕なら絶対声かけないな。絶対使っちゃ駄目な奴じゃん。

 めぐみのほうも、彼氏の尊重度低いなぁ。

 

 あぁ。

 ほんと、今更だけど、

 Ain_Tさんから、この件が持ち込まれた時、

 ちゃんと考えるべきだった。

 

 めぐみと、豊原佳澄さんとの距離を。

 めぐみなら、こうしてしまいそうなことも。

 

 ……しょうがないな、もう。

 

 「めぐみ。」

 

 「!

  

  け、啓くんっ。

  え、その、どうして。」

 

 ちょっとバツが悪そうだな。

 事前に相談したら止められると思ってた顔してる。

 

 「相手方が屈強な男性複数犯の可能性、考えてる?」

 

 「っ。」

 

 ほら。

 こういうところだぞ。

 

 「オタク一人二人なら捻じ伏せられるみたいな発想、

  してないよね?」

 

 「……うっさいな、もう。」

 

 ……はは。

 出て来ちゃったものはしょうがない。


 「本人、中に入っちゃった後?」

 

 「……。」

 

 入ってるな、これ。

 あぁもう、いろいろ後手に廻ってるな、今回。


 「あ。

  待ってっ!」


 音声通話だ。

 

 え゛

 

 (いやっ!!)

 

 足音が、複数。

 

 これ、もう。


 って、めぐみ、

 こんな時に、躰、震えちゃって

 

 ……あぁ、もうっ!!

 

 ばしっ!

 

 「け、け、啓くんっ!!」


 ビルの案内図を確認した後、

 全速力でビル内の階段を駆け飛ばす。


 唯の時の経験からすれば、

 最適解は、

 

 「!

  な、な、なんだ君っ!」

 

 地下一階、警備室っ!

 

 「少女強姦、現行犯ですっ!」


 (ぃやぁっ!?)

 

 『!?』

 

 「音声だけで、部屋は分かりませんっ。

  警備カメラ、ぜんぶ出して下さいっ!」

 

 「!!」

 

 よし、二人いてくれたっ!

 

 「すぐ警察に連絡をお願いしますっ!」

 

 「あ、あぁっ!!」


*


 ばたんっ!!

 

 「!」

 

 「!?」

 

 男、3名、か……。

 なんて、ことを。


 ……でも。

 ぎりぎり、まにあった、か……っ。

 

 「お願いしますっ!」

 

 「お、おうっ!!」

 

 ……

 あ。

 ぎり、警察も来た。

 事件性しかないもんな。

 

 ……

 ほんと、反吐が出るわ。

 燃やしてしまいたい。

 いろいろ。

 

 「……

  Ain_Tさんに、言われてましたよね。

  不用意についていくなって。」

 

 「……。」

 

 あぁ、もう。

 去年の唯と、同じ顔じゃないかっ。

 

 ……。

 唯の時は、

 うまく、やれなかったけど。


 「……

  怖かった、ね。」

 

 「!」


 怒るよりも、叱るよりも。

 先に、やることは。

 

 「……大丈夫。

  もう、大丈夫、だから。」

 

 「……っ!」


 ……よし。これでいい、か。

 後はめぐみに渡しておこう。


 「……。」

 

 ん?

 

 「啓くん、さ。


  ……

  

  ううん、

  なんでもない。」

 

 ……ふぅ。

 首の皮、半枚だったな。

 後手に廻ってしまった僕の落ち度そのものだけど。

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