後日譚の後日譚


 夏休みはまだ残っていた。

 私は新矢と相談して、親友の瑠羽るうちゃんを呼びだした。図書館前のベンチで新矢と並んでいる。彼女は緊張して待っていた私たちを見て、にやにやと笑う。


「あら? どんなご用事かしら?」

「……分かってるくせに」

「本当に、付き合ってないの?」


 定型句で揶揄われている。これには、新矢が答える。


「……付き合ってます」

「へえ~~~?」

「ちょっと瑠羽ちゃん、楽しんでるでしょ。新矢困ってる」

「そりゃ楽しいよ。夏休み明けの学校楽しみだな~。みんなどんな反応するかな~。初日は部活にならないかも」


 ふと、私たちの手元を瑠羽ちゃんが凝視する。


「手! 繋いでる! え、涼花大丈夫なの?」

「ご、ごらんのとおり」

「すごい! どうやって?」

「な、慣れ……?」

「豊田、それは語弊がある」

「へえ~~~?」


 瑠羽ちゃんは嬉しそうだ。今度は、からかっているような笑い方ではない。


 逃げ込んだ公園で、私は新矢に抱き着いた。勢いがあったのでできたけれど、いまはまだ手を繋ぐので精一杯だ。

 でもこの変化を、瑠羽ちゃんには見て欲しかった。

 たくさん応援して、ずっと見守ってくれた親友には。

 瑠羽ちゃんは私の隣に座り、抱き締めてくれる。


「良かった。頑張ったねえ」

「うん。ありがとう」

「お陰であたしは夏休み明け、後輩たちを慰めるbotと化すのですが」

「ご、ごめん……?」

「いいよ。ダブルデートしよ。あたしの彼氏と」

「それはまだ、無理かも……」

「いつかでいいよ。ゆっくりね。新矢、あたしは常に涼花の味方だから、そのつもりで」

「はい……」


 そういえばさ、と瑠羽ちゃんが顔を上げる。


「まだ名字で呼ぶわけ?」

「呼び方はね、考え中……」

「考え中?」


 瑠羽ちゃんが、私の肩に腕を乗せたまま首を傾げる。私の向こうの新矢を見た。


「お兄さんとおれの名前が、かぶっててさ。ちょっとややこしいのと、お兄さんが大丈夫な感じを模索中」

「あーお兄さんか。ゆうじさんっていうんだ? 声が優しくてかっこいいお兄さん。あのクソ過保護の」

「うん、クソ過保護の……ごめんね新矢」

「や、頑張ろう、一緒に」


 手を繋ぐ。

 今はそれだけだけれど。

 この人の優しさを抱き締められる日が、きっと来る。

 それがいつか、愛になる日も。

 きっと、迎えられるだろう。

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