会話


 暗い車内。後部座席に座った私と新矢は、手を繋いでいた。

 夏祭りにどうにか繋いだ、小指だけではなくて。


 手と手を、繋いでいた。


「……大丈夫?」


 車が走り出してから何度も、彼はそう聞いて来る。


「大丈夫」


 その度にそう返すけれど、十分後にはまた聞いてくれるだろう。

 運転手の兄は前だけを向いていて、だけど私がフロントミラーを見れば、ちらりとこちらを見て来る。気にしてくれているようだ。


 左手でスマホを取り出して、トークアプリを立ち上げる。新矢とのトーク画面を出して、書き込む。


『きょうはありがとうね。あと、ごめんなさい』


 通知を聞いた新矢が、自分のスマホを取り出した。


『謝ることない。てか、知らせてくれてありがとうな。ひとりで行かないでくれて、良かった』

『ううん。この後お兄ちゃんに嫌味とか言われたら、全部私に教えてね。怒るから』

『いいよ。怒られるのは当然だし。おれ、追い付けなかったし』

『そういえば。陸上部エースなのに。私、足おそいのに』


 ふふ、と新矢が笑う。兄がミラー越しにこちらを見た。


『普通に焦ってこけた』

『え、本当?』

『本当。それで坂田さんも面食らって遅れて、見失った』

『そうなの? ふみくんにもちゃんと謝らないと、私』

『よろしくなって、言われた』

『ん? ふみくんに?』

『そう。涼花のことよろしくなって』


 ふみくん、それはちょっと余計だったかも。


『お兄ちゃんズ、過保護。気にしないで』

『はい、って答えた。お兄ちゃんズに入る気はないけど』


 ちらりと新矢のほうを見れば、すでにこちらを向いて笑いかけてくれていた。

 通知が鳴る。


『ちゃんと、声で言いたいから。待ってて』

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