ファミレス その後

 昼食を終えて、新矢くんを先に返した豊田が満を持して注文したのはビールだった。つまみもそこそこにハイボール、ワインととんとん拍子にちゃんぽんしていく。


「きょうの夜には帰るんじゃなかったか」

「もう電車でどんぶらこっこして帰るし……」

「良かったろ、好青年で俺はびっくりした」

「金髪でちゃらくて女慣れしてたら断罪できたのに……はあ、このまま結婚まで話が進んだらどうしよう……」


 これはそうとう回っている。俺は付き合いで注文した一杯目のビールをちびちびと飲む。

 豊田は止まらない。


「なんで子ども時代ってこんなに短いんだろう。ぷにぷに短い手足でばたばたしてたと思ったらすんすん伸びてって立って歩いて話して、ちょっとお姉さんになったなって思ったらすぐに横から別の男が来るんだもんああああ」

「結婚はどう考えてもまだだし、結婚しても涼花はお前の家族だろ。大丈夫大丈夫。お前が大事に大事に育てたんだろ」

「もうなんにも覚えてない。必死でさ。涼花とおれ二人で食っていって、暮らしていくそれだけでもういっぱいで。ちゃんと大事にできたんかな。そうだなあただ、しんどいって思わずにすんだのは涼花のおかげだった。おれ一人だったらそんなことできなかった。自分の能力以上のことができたのは……救われてたのは、おれのほうなんだよ、いつだって。これからも」


 そこまで言って、豊田は泣いた。声を上げて。ファミレスでこれは迷惑すぎるのでそろそろ回収すべきだ。


「だから、涼花と暮らしたこの十年が、おれの財産で。今後なにがあっても、この経験がおれをまっとうに生かすんだと思う……涼花が結婚しても……」

「結婚はまだだから」

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