第3章 坂田史宏②
そこにはなにがあったっけ
「
運転席で
対向車のライトが車内を照らす。懐かしい光景だった。
「
高校生だったあのころ、桝月さんとさまざまな話をした。
いつだって彼女が話題を振ってくれて、饒舌でない俺は一言二言返し、それを膨らませてまたこちらに返してくれていた。
「大変は大変でしたけど。結構なブラックで転職の暇もなかったんで、潰れてくれて良かったと思うことにしてます」
「しばらくゆっくりしてください。なんなら西川の会社で雇ってもいいけどって香澄さんはおっしゃってましたよ」
「それはちょっと」
「ふふ、さっちゃんは嫌がるでしょうけど、ともおっしゃってました」
「
「元気も元気。中学生です。反抗期ですよ。早いですね」
見知った街並みに入って来た。大学時代に何度も通ったはずだが、やはり当時のままとはいかない。
「あの角、取り壊したんですね」
「結構前に。その後が決まらないみたいですね」
「なにがあったんだっけ」
「なんでしたかねえ、ああ、大きいスーパーがありましたよ、確か」
そうでしたっけ、と返す。答えを教えてもらってもぴんと来ない。スーパーがあった光景を思い出せない。
俺の海馬は煮崩れてしまっているのかもしれないと、思う。
ここを離れてしまったからだろうか。
多忙を極めた社会人生活のせいか。
道しるべを失ったみたいに、どこを探せばなにが見つかるのかも分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます