幕間 神谷趣里
変な男
在宅勤務だと運動習慣が消えるので、昼休み、食事を終えたら散歩に出るようにしていた。毎日同じ道を歩くとすれ違う人も大体決まってくる。
彼は、その道程で初めて見る人物だった。上下セットのスウェットで、荷物さえなにも持っていない様子で、広場のベンチに座って。
涙を流していた。
声も上げず洟もすすらずに、ただ透明な液体を目尻から流していた。
人目につかない場所だから目立ってはいなかったし、事実誰も気が付いていないようだった。
おれはそっと近づき、声をかけた。
「大丈夫ですか」
彼は声を震わせもせず、大丈夫ですと返してきた。まるで自分が泣いていることを知らないかのようだった。
平然として、ぬぐおうともせず、返事をしたかと思ったら、すぐに目のまえの木に視線を戻した。
そのまま離れて、近くの自販機で水を買った。
本当はコーヒーにしようかとも思ったのだが、コーヒー飲めない人だったらどうしよう、甘いの平気かな? などと考えて決まり切らなかったのだ。
ペットボトルのその水を、彼の座るベンチにそっと置いた。こちらを見て不思議そうにしていたが、目配せをして手を振りながら去れば、察したようだった。
変な男だと思った。あんな風に泣く人間を見たことがなかった。
本当は少し、話をしてみたかった。
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