親友
いつも、新矢と連れ立って学校へ行く。
マンション下で待っていてくれて、私も自転車を出して一緒に走る。通学路は狭い道で、大部分が縦に並んで走行するから話す時間は多くない。
そのまま自転車置き場でそれぞれの決められた位置に停めたら、途中で友達と会わない限り、ふたりで教室へ上がる。
ここまでは色々言われても仕方がないと思う。
授業中や休み時間はそれぞれの友達と過ごす。帰りは大抵別だ。新矢は陸上部の練習があるから、なにかの用事やテスト期間で時間が被ったときだけ一緒に帰る。
「ねえ、本当に付き合ってないの?」
なのにそんなことを聞かれるのは、私が困るたびに新矢が察知して飛んでくるからだろう。
「付き合ってないって。何回言わせるの」
お昼を食べた後のお菓子タイム。
高校で出会った親友は、定期便みたいに問うてくる。
もはやただの冗談だ。
「昨日後輩に聞かれてさ。だから、確認? いつ情報更新があるか分かんないし」
「あれば、言います」
親友の
校則は緩いほうでみんな好きにやっている。
瑠羽ちゃんはその中でも派手なほうだけど、部活のときにはぴちっとまとめてものすごく速く走るから、そのギャップがイイと特に後輩女子から人気だ。女子陸上部の部員数向上に貢献している。
「後輩ね、新矢に告白したんだって。断られたって。友達に泣きついたらあの人彼女いるじゃん、って言われたらしくって」
「それが私だって思ったわけね。ございません」
「ございませんか~」
「ございませんね~」
他学年にまで広まっていると思わなかった。
新矢は陸上部のエースで、短距離の選手だ。人当たりがいいのでモテる。その彼女と目される人間が私なので、私は結構いろんな女子に嫌われている、と思う。
瑠羽ちゃんは身を乗り出して、私の耳元に唇をよせて囁いた。
「でも好きなんじゃん」
「……だけど!」
だけど。瑠羽ちゃんにだけはなにもかも話してある。
家庭事情のことも、私の心のことも、好きな人のことも。
「だけどさ。やっぱり、まだ……」
「あたしは良いと思うけどね。付き合って、もっと距離が近くなったほうが近道な気がする」
「でも、それで駄目になっちゃったら嫌だから……」
私の怖がりは筋金入りで。
ここに来たばかりの小学生のころは、男性教員に話しかけられるだけで泣いてしまって、話もできなかった。転校前の下見で全然駄目だったから、特別に配慮してもらって女性担任のクラスに入れてもらったくらいだ。
向こうの家にいたときはそんなことなかったのに。
こっちに来てからいろいろ決壊したんだろう、というのが精神科の先生の見解だ。いまでも定期的に通っている。
男性と接するのが怖い。それなりに話せるようにはなったけれど、そういう時間が多いと疲弊してしまって体調を崩し学校を休む。
新矢に対しても同じで。
でも、私は新矢のことが好きで。本当は、もっと近くにいたくて。
告白する前に、この怖がりを克服したいのだ。
「まあ断られたらそれまでなんだけどね……」
「それはそれ。ま、ないと思うけど。で、どうすんの? 行くの?」
「うん。行くことにした。なんにもならないかも知れないけどね。もう少し、大丈夫になれたらいいなって」
不安を生む原因について少しずつ触れて行って、自身を慣らす。そうすればいつか、原因に触れても不安が生まれなくなる。
母が会いたいと言っている、と聞いたとき、私は「いまなんだろうな」と思った。学校にも大体通えるようになって、日常生活では男性と接することができるようになったいま、私がすべきことは。
過去と相対することだ。
怖いけれど、そうすることでしかきっと、私のこれは治らない。
「無理だけはしないでね」
うん、と返事をした。大好きな親友の言っていることは正しい。
「強くなって、帰ってくるね」
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