襲来
香澄さんが帰宅して、サムの散歩がてら買い物に付き合うことになった。
香澄さんと一香が店内で買い物をしている間、俺はサムと一緒に店前で待つ。いい子でお座りをしてくれている。
「サム、お手」
「わふっ」
「いい子だな」
「わふっ」
なんとなく会話ができている気がする。
サモエドなのでかなり大型なのだが、威圧感がないのは顔の可愛さとその笑顔と毛の柔らかさによるものだろう。
「サム、おかわり」
「わん!」
サムの返事ではない。人間の声だった。
顔を上げると、そこには知った顔がいた。
知った顔ではあるのだが、ここにいるべき顔ではない。にこにこ嬉しそうで少し腹が立つ。
「なんでここに」
「秘密」
「仕事は」
「リモートだからどこででもできるし」
「なんで場所までわかるんだ」
「出ていくときに町の名前までは言ってたじゃん。見つけられてよかった。おれそういうとこ運がいいんだよね~」
「……」
「あ、お願いがあって」
サムは吠えない。それどころか尻尾を振って愛想を振りまいている。頭のいい犬だった。確かにこいつは不審者ではない。
「泊めて」
こんな言動でも、不審者ではないのだ。
話し込んでいると買い物袋を提げた香澄さんと一香が戻ってくる。
男はもはや馴染んで、サムをその腕に抱いている。こんな大型犬を軽々と。サムもうとうとしている。それはわかる。
こいつの雰囲気はどこかおかしくて、気を許してしまう。
「あら、どなた?」
「どうも。
「知らん」
「じゃあ、お友達です~!」
眉間を押さえる。
どうやら俺は、こういうのに付きまとわれる運命らしい。
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