第27話
「お前、何やっているの?」
勇真は優魔に呆れた目を向ける。
今まで色々考え込んでいたことが馬鹿らしく感じる。
その視線に気づいて、勇真が顔を上げる。
スマホは手に持ったまま、ワイヤレスイヤホンを外す。
「おはようございます!レッドハート」
立ち上がって、ばっと礼をする。
自分が勢いよくやると、風も立つのかと、その勢いのよさに圧倒される。
ハキハキした声で、目をきらめかせている。
いきなり懐いたのか、礼儀をわきまえたのか分からないが、勇真にはそれどころではなかった。
レッドハート。
その言葉に、顔を引きつらせる。
自分でつぶやいただけだと思っていたが、当時よろしく大声で叫んでしまっていたのだろうか。
「お前、何言って…」
『燃える心臓、レッドハート!』
そんなはつらつした声が風呂場に響いた。
「間違えてどこか押しちゃったかな」
優魔がスマホを操作している間も次々と声が聞こえてくる。
『知性あふれる頭脳、ブルーブレイン』
『雷光の走り、イエローレッグス』
『癒しの手、グリーンハンズ』
『キュートな瞳、ピンクアイ』
『みんなを守る、みんなで守る』
『我ら』
『エブリバディーガーディアンズ』
ドーン、とお決まりの爆発音が聞こえる。
「とりあえず一時停止にしますね」
スマホの動画の真ん中の場面を押し、再生の赤い三角マークが出る。
硬い翼を持つ灰色の女性型の怪人が、大量生産型の怪人たちに指示しているところで止まっていた。
「あ、ここ使いますか?すいません、長居してしまって。俺、着替え用意してきますね」
バタバタと、浴槽から出ようとする。
「待て待て待て」
それを手で制しようとする。
「昨日も言ったが、自分の姿が自分に敬語使うの変な気分になるから、無理に使わなくていいって」
「え、不自然ですか?」
「いや、めっちゃスムーズだけど」
ツッコミで大声を上げてしまう。
「やっぱり、長年憧れ続けてきた人相手だから、敬意を表したいなと」
照れてれと、自分の体がうねうね動いていることに、正直引きたいが、それ以上に言わないといけないことがある。
「さっきレッドハートとか言ったが、別に俺はそいつじゃない…」
『燃える心臓、レッドハート!』
「流れた声、まんまこの声じゃないですか」
「うぐっ…」
いつの間にか巻き戻して再生した声に、何も言えない。
「俺も悩んだんですよ。俺が長年憧れていた人が、こんな冴えないおっさんだったのかって」
「…悪かったな。まあ、今はお前がそのおっさんだけどな」
否定することも忘れて、煽ってゲラゲラ笑う。
「だから、活躍した頃の映像調べたんですよ。そしたら、すっかりはまっちゃって。早い話が、俺はあなたのファンになりました!」
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