魔法使いと元ヒーロー
第26話
鳥のさえずりとまだ梅雨も明けてないのにセミの鳴き声が聞こえる朝。
梅雨の真っ最中だというのに、カラッカラに晴れ渡っている青空。
カーテンの隙間から、眩しいくらいの陽の光が差し込んでくる。
布団に入っていた勇真はのそりと起き上がる。
まだ眠気が抜けないのか、ごしごし目をこする。
目を覚ますために、洗面所へ顔を洗いに行く。
水をぱしゃぱしゃかけ、もらいものの白い無地のタオルで顔をふく。
そして、鏡に映った顔をまじまじ眺める。
「眠っても、元には戻らないか」
ため息をついて、肩を落とした。
昨晩は魔力切れで気絶するように眠りに落ちたので、いつ寝たのか覚えていない。
もしかしたら、一晩寝たら元に戻れるのではないかと淡い期待をしたが、その願いは叶わなかった。
「寝癖ついていても、こいつはイケメンだな」
跳ねた髪をつまんだりする。
「そういや、優魔はどこにいるんだ?」
居間に敷かれた布団は1枚だった。
この家には、ここ数年は友人を呼ぶことがなかったために、一組しか置いていなかった。
騒ぎがなければ、ひとまずは優魔に布団を使ってもらおうかと考えていた。
自分は床でも寝られるだろうと。
このとき、入れ替わったことにより寝心地も変わるだろうことは考えていない。
魔物がいた屋敷から自分の家に戻っていたので、優魔が自分を運んでくれたのだろうと、考える。
体は今は相手が大人で、自分は子供とはいえ、もうすぐ三十路になるのに、中学高校生くらいの子供に世話になったことが申し訳ない。
優魔がどうやって寝たかは知らないが、起きた以上今の自分より元に戻れていないことは把握しているはず。
この辺りの地理には詳しくはないのに、外に出たのだろうか。
考え込んでいて、ふと隣の風呂場に電気がついていることに気づいた。
「シャワーでも浴びているのか?今日も暑いもんな」
ふと、自分の服がパジャマになっていることに気づく。
「これも勇真が着替えさせたのか」
確かに、露出していないあの真っ黒の服で、寝るのはきついものを感じていたので、少し涼やかにはなった。
しかし、勇真の体が寝ている優魔の体の服を脱がせて着替えさせることに、端から見たら事案じみたものを感じてしまう。
「俺もシャワー浴びたいな」
これが男女感の入れ替わりなら、一悶着あるのだろうが、男同士なら気にしない者も多いだろう。
現に、優魔は気にしないでシャワーを浴びているし。
しかし、芸術作品じみたこの姿だと、自分から脱ぐことに罪悪感を感じる。
「それにしても遅いな」
シャワーだけじゃなく、湯船にも浸かっているのか。
気になり、ドアを叩く。
返事はない。
もしかして、電気つけっぱなしなだけで、別の場所にいるのではないか。
恐る恐るドアを開ける。
そこにいたのは、何も入ってない浴槽で縮こまって、スマホを眺めている優魔の姿だった。
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