第25話
「エブリバディチェンジ?」
勇真がどうしてそんなことを言ったのか分からず、優魔は思わず復唱する。
そうすると、心の底に火が灯ったような感覚がする。
その火が体中に広がり、炎となり体を熱くする。
「何、この感覚…」
異様な感覚だったが、不快は感じなかった。
むしろ馴染み深く感じた。
「え?」
勇真の姿は変わらず、優魔のままである。
しかし、その周りに炎がメラメラと燃えているように見える。
それが、昔優魔を助けてくれた魔法使い、全身が赤い装束で、ヘルメットをかぶり、そのヘルメットの目の部分はシールドがあり顔は下半分しか見えない。
その人が重なった。
「燃える心臓、レッドハート!」
決めポーズを取る。
「みんなを守る、みんなで守る。我ら」
「「「エブリバディーガーディアンズ!/…」」」
ファンの井上は興奮して、優魔は昔をなぞるようにともに言う。
「あの子、再現度高いッスね!」
憧れていたヒーローを10年ぶりに再び見れたような感覚で、興奮が収まらない。
「勇真さんがあの時助けてくれた魔法使いだったの?」
そうつぶやく声は、勇真にも井上にも遠く、届かない。
「気持ち、高まってきた…」
拳を握り締める。
(あの武器、俺がどれだけ見て、使ってきたと思ってたんだ)
勇真の両手の上で風が巻き上がる。
もやがだんだんと形作っていく。
そして、ベースが白く、パーツに所々赤く塗られたライフルが現れる。
「久しぶり、相棒」
懐かしい目をして、眺めていた。
「エブリバディガンだ!」
井上は子供の頃に戻ったように、わくわくが止まらなくなっている。
優魔も目をきらめかせていた。
(すごい疲労感がする。これが魔力を使った結果なのか?)
はあはあ、息を荒くしている。
「1人しかいないけど、一撃でやられてくれよ」
エブリバディガンのトリガーに指をかけ、構える。
「ハートショット」
静かに言い放ち、弾丸が飛び出す。
撃ち出した威力に耐えられず、反動で銃口が天井に向くように、跳ね上がる。
蜘蛛に真っ直ぐ向かっていった弾丸は、弱点の心臓に打ち込まれる。
「グギャー!」
蜘蛛が悲鳴を上げると、爆発が起きる。
その威力で蜘蛛は焼け、遺体すらも残らず、灰をまき、消えた。
「やったか」
勇真は疲れでその場に座り込む。
蜘蛛が消えたことで、糸も消え、優魔も解放される。
「大丈夫、勇真さん?」
勇真のもとへと駆け寄る。
「おう!これくらい平気平気」
腕をぶんぶん振って、無事なアピールをする。
パチパチと音がする。
その音の方を見ると、蜘蛛が消えたあとも、炎が残り、屋敷に飛んでいた。
「これはやばい?」
優魔が冷や汗を流し、顔を引きつらせると、
「に、逃げろー!」
勇真が叫ぶ。
優魔が疲れで足がもたれる勇真を抱えて、井上とともに玄関を飛び出す。
庭を走って、門を開き、家の外まで出ると、炎は屋敷全体に広がっていた。
「これ、俺のせい?家は売りに出すって聞いたんだけど」
「まあ、魔物が出るって通報があったから、上層部が買い取るとは思うけど。もしかしたら、専門の部隊が戦うときに壊れるかもしれないから」
3人並んで、燃える屋敷を眺めている。
「でも、疲れたところ悪いけど、もう一仕事してもらうよ」
「まだ、何かやることあるのか?」
「この炎消さないと。周りの家にも火が飛ぶかもしれないからね」
広い敷地にある家で、隣同士と空間は空いてはいるが、何がきっかけで燃え移るかは分からない。
「俺はどうすればいい?」
「水を出して。それなら、召喚より単純な魔法だから。あれだけ強力な武器召喚した後で、どれだけ魔力残っているか分からないけど」
「分かった」
自分の感覚としては、魔力の量は残り少ない。
でも、自分のしたことで、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
目を閉じ、集中する。
全体的に水を出し、炎を消していくのをイメージする。
「
そう唱えると、雲がないのに、屋敷の上にだけ、雨が振り出す。
その雨はしばらくして、屋敷の炎を消していった。
「よかった。召喚は難しい魔法だから、時間かかったけど、こっちはうまくいったね」
そう声をかけるが、勇真は倒れてしまう。
「ちょ、大丈夫ッスか!」
「うん。疲れただけだ」
(多分魔力切れなんだろうな)
救急車や消防車のサイレンが聞こえてくる。
「やっと来たようだね」
優魔は、すうすう寝息を立てている勇真を背負う。
「俺たちは今目立つ訳にはいかないんだ。これから来る人にはありのまま話していい。見えない何かに襲われたと言っても、信じてくれるから。でも、この場に俺たちがいたことは話さないで、一人で逃げたことにしてくれる?」
「…分かりました」
真剣な表情に、そう答えるしかなかった。
正体を隠して、活躍するヒーローものは見てきたので、彼らもそうなんだろうなと、あっさり受け入れた。
「じゃあ、帰ろうか」
背中にいる勇真に声をかけ、勇真の家へと足をゆっくり進めていった。
深夜。
火が消えたことで、消防車とパトカーは去り、残るのは井上を手当てしている救急車のみ。
数人のローブを着た魔法使いが壁の表面だけが焼け、形が残った屋敷を調査している。
そこに、月を背にした一人の人物が降りてくる。
不可視のローブを着ているため、井上だけはその存在には気づかない。
双翼を身に纏っていたのは、女性であった。
銀色の長い髪に、真っ白な肌、銀色の瞳が神秘的な雰囲気を醸しだしている。
「お疲れ様。状況はどうですか?」
「これは天使様」
「やめてください。天使ではありません」
ぴしゃりと言い放つ。
「魔力の残穢から魔物がいたことは確かなようですね」
焼けている床を調べていた。
「確かに逃げるようには言ったのですが、通報者がこの場にはいないので、もしかしたら、通報者が魔法を使ったのかもしれません」
「そうですか。救急車にいた彼は?」
「彼は魔物に襲われた一般人のようです。一人で逃げてきたと言っています。それほど怯えた様子はありませんが、何がきっかけでトラウマになるか分からないので、記憶消去を施す予定です」
女性は、周りを見渡し、くんくんと嗅ぐ。
「どうかしましたか?」
「いえ、炎の臭いがある人を思い出させて。そんなことあるはずないのにね」
微かにはにかむ。
「しかし、天使様ならこんな惨状になる前に、魔法一撃で魔物をやっつけられたのでしょうね」
「だから、私は天使じゃありませんし。それに、あなたたちと同じ魔法使いでもありません」
くるりと振り返る。
「全てを包み込む翼、シルバーウィングス。ただのヒーローですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます