第24話
突き飛ばされた先は蜘蛛の糸で閉ざされた扉であった。
その糸に貼り付けられ、また背中を打ちつけた痛みで優魔は動けない。
「赤志さん!?」
「井上はここに隠れてろ。絶対出てくるなよ!」
勇真は優魔のもとへ駆け出していく。
「ゆ、ゆうまさん…」
痛みをこらえながら、弱々しい声を出す。
「勇真さんの体、さんざん傷つけちゃって、ごめん」
「んなこと言ってる場合か!むしろ、今痛い思いをしているのはお前だろうが」
糸を引きちぎって、優魔を下ろそうとするが、糸がもともと固いことと、勇真の体と比べて優魔の体は非力なため、力が出せない。
「俺、ここから動けそうにないかも」
「ああ。早く外してやるからな」
「だから、井上さんと逃げて」
その言葉を聞き、一瞬黙り込んでしまう。
「お前、何言って…」
「井上さんを探したとき、裏口あるの見たでしょ。俺を相手にしている間、時間できるから、その間に」
「優魔を見殺しにしろって言うのかよ」
絶望に満ちた表情になり、うなだれる。
「ごめん、元に戻せなくて。俺の体で生きてもらうことになる」
「そうだ、元に戻れば」
強くすると、致命傷を与えるかもしれないと思い、痛くない程度にお互いの額を打ちつけあう。
「戻れ戻れ戻れ」
必死に、願いをこめて。
「勇真さん、あの蜘蛛来ちゃう」
「戻ってくれよ」
勇真は崩れ落ち、目から大きな涙がこぼれ落ちる。
「俺が助けに行くってい言ったから。今の俺には何もできないのに」
無力な自分に絶望するしかない。
「それでも付いていくって決めたのも俺だから」
優魔の言葉に耳を傾けるため、顔を上げる。
「助けを待つだけの自分が嫌だった。あの日助けてくれたあの魔法使いみたく、誰かを助けられる誇れる自分でありたかったんだ。例え姿が変わったとしても」
その人は魔法使いじゃないし、憧れられるような存在じゃないと、本当は言いたかった。
「ここで全滅したら、本当に後悔しちゃうからさ。早く行って」
ここで自分の身を犠牲にする生き方のために、助けた訳じゃない。
それでも、優魔の中にいるのは、自分で自分を誇ることができた最高だった自分だ。
そんな自分を召喚できれば、この場は切り抜けられるはず。
涙をぬぐい、立ち上がる。
「今は資格がうんぬん言ってる場合じゃない」
覚悟は決めた。
振り返り、巨大蜘蛛と対峙する。
そのことに、優魔も気づいた。
「俺の体で無茶…」
「エブリバディチェンジ」
そう唱える。
ここには変身道具もない。
優魔の体には、変身できるだけの魔力はない。
でも、勇真にとっては、勇気を奮い起こす言葉であった。
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