第20話

 「こ、これッス!俺が怪我したのは」

どこから飛んできたのか、周りを見渡す。

「いた」

勇真がにらみつける。

人の背丈ほどの蜘蛛がいた。

「そこにいるの?やっぱり、俺には見えなくて」

勇真と同じ方向に視線を向ける。

「いるぜ。バカでかい蜘蛛がな」

「でかいって。こんな街中でそんな魔物が出てくることなんてないのに」

「でも、見上げるくらいの大きさなんだよ。かろうじて今のお前くらいじゃねえの」

「そんなのますます今の俺には太刀打ちできない。早く外に出よう。扉さえ閉めれば、開ける器用さなんてないだろうから」

そう言うと同時に蜘蛛の足の攻撃を避けたときのしゃがんだ態勢から立て直し、玄関の扉に向けて駆け出していく。

しかし、蜘蛛も獲物を逃がしてたまるかと、糸をしゅるしゅる吐き出す。

それは、扉全体を覆うものだった。

「は?何でいきなり蜘蛛の糸が」

話を聞いておらず、魔物が見えない井上はいきなり出口が閉ざされたことに、驚きと恐怖をあらわにする。

「この糸は見えているのか?」

「うん。魔物が放つ炎や水の攻撃とかは一般人でも見れるみたい。この糸粘り強いし、簡単に扉は開かなそうだ」

糸にペタペタ触り、強度を確認する。

「じゃあ、俺たちで何とかするしかないのか?」

後ろを振り返り、魔物の蜘蛛を見つめる。

物陰に隠れて、どうするかの作戦会議のために、井上を下ろす。

「俺があいつに攻撃して、ひとまず時間稼ぎを」

勇真が立ち上がる。

「待って。自分で言うのもなんだけど、その貧弱な体で適うわけないでしょ。戦闘経験なんてほぼないんだから」

「そっちの体だとしても、魔物見えないんだから無理だろ」

「そうなんだよなあ」

困って、頭をがしがしかく。

「元の状態なら、俺がそのまま魔法使えたのに」

「今の俺には無理なのか?」

「その体には魔力はあるからできないことはない。でも、想像力が必須だから、初めて魔法を使おうとしても、コントロールが難しくて、最悪暴走して、俺たち共倒れ」

はあ、とため息つく。

「俺が魔法使えるなら、一発逆転可能か?」

「そうかもね。とりあえず、武器召喚してみて。それなら、まだ可能性あるかも」

「武器って。お前が家で使っていた?」

勇真は捕らえられたことを思い出している。

「そんな一度しか見てないものを再現するなんて、無理でしょ。日本って、アニメやゲームの国なんだから、そこに出てくる剣とか銃とか思いつかない?」

「別に俺はそんなに見てきてないから」

蜘蛛がカサカサ探して、動き回る音がしてくる。

「このままじゃ、いつか見つかるだけか。俺、出てくる」

「いや、見えないんだろ!」

「今は音が聞こえるし、気配も少しはつかめてきた。本当に必要なときは、勇真さんが教えて。この頑丈な体なら、少しは何とかできそうな気がする」

そう言って、物陰から出ていく。


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