第19話

 「ここで何があって、どうして怪我したのか聞いてもいい、ですか?」

勇真は井上の顔色をうかがう。

「…うん」

そのときのことを思い出し、真っ青になりながらも、うなずく。

「と言っても、俺もよく分かってないンスけどね。隣の部屋でスマホ見つけて拾い上げたところで、背筋がゾクッと寒気がした」

恐る恐る振り返ると、そこには何もいなかった。

ほっと、安堵のため息をつく。

しかし、安心した瞬間、風が腕を切り裂く。

「痛え!」

大きな叫び声を上げる。

腕からは血がしたたり落ちていく。

辺りを見渡すが、何もいない。

でも、目には見えない悪意のある存在がこの部屋にいることは分かった。

部屋を飛び出していく。

今日の引っ越し作業で隣の部屋にクローゼットがあったことを思い出し、そこで息を潜めることにした。

クローゼットの隙間からのぞき込む。

何も見えないことには変わらないが、微かなカサカサした音が部屋を通り過ぎていくのが分かった。

しかし、どのタイミングでそこから出ればいいのか分からず、意気消沈していた。

「ちょうどそのときにやってきたのが赤志さんたちだったンスよ」

真っ暗な廊下を進んでいく。

「運がよかったですね。見えない一般人が怪我程度なんて」

魔物の存在を実感して、優魔は素が出てしまった。

「もしかして、赤志さんここにいる奴のこと知っているンスか?」

「い、いや…」

突っ込まれたことを聞かれて、何と言っていいか分からず、口よどむ。

「もしかして、赤志さんゴーストバスターか何かッスか?」

「…まあ、そんなところ」

優魔が負ぶっているため、視界には入らないが、目がキラキラ輝いていて、声から興奮を隠しきれていない。

「勝手な属性をつけないでくれ」

小声でつぶやく。

「まあ、上の人が記憶消すと思うから。一般人が魔物と遭遇したときする対処方法」

「もしかして、優魔くんもそうなのかな?」

「…そうですね。先輩の勇真さんから勉強させてもらってます」

記憶が消されると分かったので、ゴーストバスター設定に乗っからせてもらう。

階段を降りていき、ようやく玄関前までたどり着いた。

「こんな大変なこと起きるの10年ぶりだな」

「10年?」

「うん。そのときは、今と逆で俺より小さい子を負ぶってたけど」

その発言を聞いて、勇真は井上に振り向く。

「お前、もしかして…」

そのとき、勇真の視界に黒い線状のものが飛び出してくるのが見える。

「あれ、優魔くんって、どこかで会ったことある…」

「優魔、しゃがめ!」

とっさの発言だったが、声に従って動いた。

頭上に風を感じる。

一瞬通り過ぎたら、近くにあった階段の持ち手が切り裂かれているのが見えた。

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