第16話

 物音を立てないように、ドアを片っ端から開けていく。

とある部屋の前に立つ。

「ここって、確かポルターガイストが起きた部屋なんだよな」

「もしかしたら、魔物がいるかもしれない。開けるのやめたら?」

「でも、井上がいるかもしれないし」

より慎重に開けていく。

部屋をぐるりと見回した。

「よし、魔物はいないようだな」

「あの真ん中に落ちているの、スマホじゃない?」

優魔が小声で指さす。

静かに部屋の中に進む。

「これが忘れたって、言ったスマホだな。落としちまったのか、画面が粉々だ」

残念とばかりに、あーあとつぶやく。

「井上とは連絡取れないな」

「勇真さん、これって…」

優魔が引きつらせた真っ青な顔で指さす。

電機はつかないが、カーテン取り外されているので、月の白い光が差し込んでくる。

そこには、血が飛んだ跡がある。

「もしかして、ここが事件現場だったとか…?」

期待を込めて、問いかける。

「いや、1階の玄関で襲われたらしいし、今日見たときはこんなのなかった」

「じゃあ、これはここに来た井上さんの。スマホだって、襲われたときに割ったのかもしれないし」

「早く助けに行かねえと」

足早に部屋を出て、次の部屋に向かう。

「ここもいねえな」

辺りを見回す。

「勇真さん、勇真さん」

閉められたクローゼットを指さす。

よく見ると、その取っ手に血がついている。

中にいるのは人間か魔物か。

恐る恐る慎重に開けていく。

「お、いた」

口を手で抑え、涙ぐみながら、震えて縮こまっている井上の姿だった。

腕に縛られているタオルからは血がにじみ出ている。

「だ、誰…?」

不安そうに、声を震わせてつぶやく。

「あ、やべ」

井上が見つかった安心感で、入れ替わっていることを忘れて、初対面の優魔の姿で話しかけてしまった。

「悪い、俺だ」

勇真を押しのけ、優魔が声をかける。

「あ、赤志さん…?」

「お前が行方不明だって言われたから、探しにきたんだよ」

大丈夫か、と手を差し出す。

「こいつ、今預かってる親戚の子で。話聞いたら、心配してついてきちまって」

(俺の真似、上手いな。それに、順応性が高い)

優魔の様子を感心して、見ている。

勇真はぼろを出さないように、黙ることしかできなかった。

「あとスマホ。壊れているかもしれねえけど」

「どこに落としたのかと思ったら。連絡しようと思ったンスけど、どこに連絡したらいいか分からねえし、肝心のスマホがないから、何もできなくて、きつかったンスよね」

へらりと、弱く笑う。

「それは、こっちで連絡したから。ひとまずはここから出ようか」

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