第15話
1階では見つからなかったため、2階へと上がっていく。
「とりあえず今のところ、魔物も見つからないな」
「でも、見えるの勇真さんだけだから、油断しないで」
優魔は見えないなりに、辺りを気配で探っている。
「魔物って、本当に恐ろしいんだから」
「お前、遭遇したことあるんだな」
「うん。海外では、遠目にいるのは通報したこと何度もあるし。日本にいたとき、襲われたこともある」
「…あのこと以外にも、恐ろしい事件は日本でも起きてたんだな」
勇真がぼそりとつぶやく。
「あのことって、日本で大変なことでもあった?」
「お前が知らないなら、いいよ。あれから10年も経つし、海外じゃ詳細あまり知らないだろうしな」
「10年前って、ちょうど住んでいたときだ。まあ、魔物に襲われたから、海外に移住することになったらしいけど」
「…そう」
優魔の言葉に何か心当たりがあったようだが、優魔にそれに気づかない。
「それで、危険だと思っていた日本に何で戻ってきたんだよ」
「探している人がいるんだ」
「探している人?」
階段を上がりきり、前を進んでいた勇真が振り返る。
「魔物に襲われたときに助けてくれた魔法使い」
「魔法使い…」
「子供の頃だから、記憶はあやふやだけれど、魔物がみんな見えていたから、魔法使いの集まりかなんかだったと思う。大人も子供も関係なく襲われて。親ともはぐれて、たまたま少し年上のお兄さんにかばわれながら、動いていて。怪我もしていたから、大泣きしていて。でも、周りも助ける余裕なんかなくて」
そのときのことを思い出す。
倒れて、瓦礫だらけの街。
ところどころに炎も揺らめき、煙も出ている。
瓦礫の下で動けなくなっている人や壁にもたれかかっても人もいる。
そんな街中を小学校高学年くらいの少年と幼稚園くらいの少年が怪我した足を引きずりながも歩いている。
顔に血を流している箇所や、土埃で汚れたりしている。
「あまりにわめくから、その声に魔物も寄ってきて、まさに襲われるって思ったんだ」
黒い二足歩行で歩く大人の背丈ほどの生き物が、刃が付いた腕を振り下ろす。
少年たちは絶体絶命とばかりに、目をつぶる。
「そのときに、やってきたのが赤い魔法使い」
「…赤い魔法使い?」
「顔もよく見えなくて、俺が覚えているのは赤い服着ていたくらいなんだ」
少年たちの前に降りたつ全身を赤で纏った青年。
青年がその生き物を突き飛ばし、距離を取る。
顔は太陽の反射で見えていない。
「もう大丈夫って、頭を撫でてくれて。そのとき、俺は安心して気絶したみたい。目が覚めたときはもう全部終わっていた。たったそれだけの記憶しかないけど、その魔法使いは俺にとっての命の恩人だから。だから、その人を見つけて、ありがとうって言いたいんだ」
優魔は照れくさそうに、はにかむ。
「ふ、ふーん…」
顔を見せないように、ばっと前に向き直す。
「そういえば、お兄さんはその魔法使いの名前知っていたみたいだったけど、何て言ったっけ?」
「ほら、話してばかりじゃなく、探すぞ!魔物に見つかる前に、ここを出ないといけないんだから」
「う、うん…」
話を終わらせんばかりに、早口でまくしたてる。
その慌てる反応に疑問を抱くが、勇真の言う通りだよな、と優魔も捜索を続けるのだった。
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