第17話

 「分かりました」

安心した様子で、クローゼットから井上が出てくる。

「痛っ…」

クローゼットの中は暗いから見えなかったが、井上は足も怪我をしたようだった。

引っ越しで大仕事になるからと、汗をふくように持ってきていた、足を縛りつけたタオルからも血がにじみ出ている。

「ひどい出血だな」

「通報したときに、被害に遭った人はすぐに病院に運ぶよう手はずは整っているから、大丈夫だと思うけど」

その怪我のあとを二人は見つめている。

「お前、歩ける?」

「逃げていたときに、進む度に足がひどく痛んだンスよね。無理すれば、いけなくもないけど」

「早くここから出ないといけないしな」

勇真が井上に背を向けて、しゃがみこむ。

「連れてってやるから、乗りな」

「え、君が?」

「ほら、早く」

「さすがに、自分より年下、背丈も低い子が背負えるとは思えないんだけど」

(そうだ。優魔の体だった!)

また、入れ替わっていることを忘れたが、ここからどうすれば、分からず固まっている。

「俺!俺が運ぶから」

たまらず、優魔が口を挟む。

「赤志さんなら、大丈夫そうッスね。甘えさせて、もらいます」

しゃがみこんだ優魔に、井上が乗っかる。

(成人男性を軽々運べるとか。やっぱり力強いな、この人の体)

勇真の体に感心しながら、立ち上がった勇真とともに、魔物に気づかれないように静かに歩きだす。

「君、赤志さんの親戚の子だっけ?」

背中の上から井上が、勇真に話しかける。

「そうだけど」

今度こそぼろを出さないように、ぶっきらぼうに答える。

「こんな強くてかっこいい人が身近にいて、うらやましいな」

憧れの人を目にしたかのような笑顔であった。

「さっきも本棚が倒れたときに助けてもらっちゃった」

「そんなの、危ないと思ったから、体が動いただけで」

「赤志さん、この子のこと、ちゃんと教育しているんですね」

「え、何で」

不意に話しかけられて、優魔は驚く。

「親戚だから照れ隠しってのもあるだろうけど、目の前で人が危ないときに助けようと動くことを、この子自身が当たり前だって思っているってことでしょ?さっきも、勇真さん謙遜していたし。やっぱり、そういう血が流れているのかな」

実際は親戚ではないし、今褒められている人と先ほど助けられて感謝されている人は同一人物である。

そのことに何て返したらいいか分からず、気まずく目配せする。

「今もこうして、助けに来てくれて。やっぱり、ヒーローだなって思った」

「だから、ヒーローじゃねえって!」

勇真は声を張り上げる。

そのことに、はっと気づく。

「悪い。静かにしなきゃだったよな」

3人はそのまま、歩きだす。

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