第11話

 そのとき、勇真の電話が鳴った。

「何だ、こんな時間に。仕事の斡旋か?」

まだ日付は越えてはいないが、時間帯は深夜になっていた。

画面を見てみると、上田という名前があった。

「上田…。誰だっけ?」

「勇真さんが知らないなら、俺も知らないけど!?」

二人でスマホを眺めている。

「えっと、俺が出た方がいい?」

「何で?」

「今、勇真さんの体なの俺だから」

「ああ」

入れ替わりという超常現象に、対応まで頭が回っていない。

「じゃあ、俺にも聞こえるようにして。全く心当たりなかったら、切ればいいし」

優魔はうなずいて、画面をタップした。

「すいません、赤志さん。今、大丈夫ですか!?」

切羽詰まったような青年の声が聞こえた。

「えっと、誰?」

声を聞いても、勇真は誰か分からない表情をしていたので、そのまま優魔が尋ねた。

「今日、一緒に仕事したじゃないですか!」

ああ、と今日のことを思い返してうなずいた。

三人のうちの誰かはまだ区別できていないが。

「それで、井上からは連絡きてないですか?」

「井上?」

勇真の顔をちらっと見ても、やはり分からないようだった。

「井上も今日働いていた奴ですよ。俺たちに興味ないんですね」

「わ、悪い…」

優魔には全く関係ないのだが、気まずさから謝るしかなかった。

「その様子だと、何も知らないみたいですね」

「何かあったのか?」

比較的勇真の口調を真似て、問いただす。

「井上の奴、食事中今日の現場にスマホ忘れたから、取りに戻ったみたいで。俺たちも着いていくって言ったら、すぐに戻るって。でも、もう終電前なのに戻らないから。電話に出ないから、まだ取りに行けてないのか。取りに行った後に何かあったのか」

心配している様子が口ぶりからうかがえる。

言われた通り、井上からは連絡きてはいない。

今日行った現場、黒い噂のあった曰く付きの幽霊屋敷を思い出す。

怪奇現象が起こり、異様な寒気を感じていた。

あんな場所に深夜に行ったら、何か恐ろしいことが起きているのではないか、そんな予感がした。

「分かった。すぐに向かう」

「待って、誰…」

今の声が優魔だということを忘れ、電話に出て、すぐに切った。

「そんな切羽詰まったような声で。その場所に何かあんの?」

「ああ。気のせいだといいんだが」

勇真は家を出ようとするが、扉の前で立ち止まる。

「優魔の姿だと、補導されるかもしれないよな」

「それなら」

とんがり帽子を投げ渡す。

「それ、魔法道具で魔法を知らない一般人に対して、不可視の効果あるから」

「ありがとう」

いつものスニーカーを履こうとするが、緩いことに気づいた。

「だから、勇真さんが履かないといけないのは、こっちのブーツだって。かなり動揺してる?」

「悪い…」

「俺も着いていくよ。魔法使いの卵の子供の体だってこと、勇真さんはまだ慣れていないみたいだし」

「助かるよ」

二人で家を飛び出して行った。

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