第10話
「まだ、じんじん痛む」
手を抱えこんでいる。
「大丈夫かよ。調子に乗って叩くから」
痛みが治まってから、向かい直す。
「あんたの名前教えてよ。さすがに、いつまでもおっさん呼びは悪いし」
「そういえば、お互い名乗ってなかったな。勇真だ。
「ゆうま?」
きょとんとした表情で魔法使いは首をかしげる。
「お前、日本語話せるみたいだけど、書いたり読んだりとかできるのか?」
「うん。子供の頃住んでいたことがあるから」
魔法使いの言葉にうなずくと、スマホに打ち込んでいく。
「勇気の勇に、真実の|真《ま
》」
「へえ。俺は
次は勇真が目を丸くした。
「同じゆうまだったのか」
「そう、奇遇だな」
勇真の無精ひげの生えた大人の顔で、子供らしく無邪気に笑う。
漢字が違うものの、同じゆうまという名前の2人が入れ替わったことに、運命めいたものを感じる。
「それに、ハーフ?」
「父さんがイギリス人で、母さんが日本人。日本語は母さんから教わったんだ」
「なるほどな」
勇真はうなずく。
「そういや、時間けっこう遅いが、親心配しないか?あ、でも、俺が帰らないといけないのか」
勇真は少し慌てる。
恐らく一回り以上離れている子供のフリを親の前ですることに自信なんかなかったので、不安を感じていた。
「それなら、大丈夫。親は海外で仕事で、これからホテル探すところだったから」
「それだったら、バレる心配はなさそうか」
ほっと、一息をつく。
「それにもう夏休みだから、学校行く必要もないから」
「え、もうか?早くないか。まだ7月にもなってないだろ」
「海外って、そういうところ多いんだよ。日本くらいだよ、短いの。もともとイギリスに住んでいて、9月から日本の学校に通うんだ」
テレビで聞いたことはあるものの、実際に違う文化を知ることができた。
「だから、こっちには俺の知り合いはいないから、無理に俺のこと演じなくてもいいけど…」
優魔が何か言いたいことがあるように、目線を向けるが、勇真はそれに気づかない。
「俺も毎回同じ仕事場じゃないから、知り合いはいないが。まあ、たまに一緒になる奴もいるが、ちょっとくらい性格変わっても、誰も気を止めないだろ」
けらけら楽しそうに、笑う。
「なんというか、人間関係的には支障がないところで、入れ替わったんだな。…少なくとも今のところ」
最後にぼそりとつぶやく。
「まあでも、元に戻る方法は探さないといけないんだけどな。もう一度学生生活なんて、俺には送れねえし。優魔も、こんな底辺な生活送っているおっさんの体にはいたくねえだろ」
「察してはいたけど、自分で底辺言っちゃうんだ」
優魔は苦笑いをするしかなかった。
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