第9話

 車通りも少なくなってきて、風の音しか聞こえなくなってきた。

二人は、並んで座っていた。

体が入れ替わるという異常を抱えた状態で。

魔法使いは、勇真が起きたときのようにうなだれている。

「何でこんなことになったんだ」

「そんなの俺だって知りてえよ」

お互い悩んでいるだけで時間が過ぎていく。

(俺がこいつを見つけたばかりに、こんなことになっちまって。やっぱり、俺ってば疫病神だよな)

勇真はため息をつく。

「ため息つきたいのは、こっちだっての」

むすっと、口を尖らせる。

「待ってくれ。俺のその子供っぽい表情は見るに耐えない」

自分の初めての表情、まず客観的に自分のことを見る機会なんてそうそうないのだが、見ていて顔と合わなすぎて、頭を抱えてしまう。

「こんなゴミ屋敷に住まないといけないみたいだし?」

勇真の話を無視して、不満を垂れ流している。

「それは、今度片づけますので…」

「おっさんはいいよな。一回り以上若返った体になれたんだし?俺はやりたいことまだまだあったのに。こんな体じゃ何もできねえよ」

「…よくねえよ」

勇真がつぶやく。

「何?俺の体に文句ある訳?」

「そうじゃねえって。どんな事情があるにしろ、若者の未来を奪うような真似をして、いい気分がする訳ねえだろ」

勇真は真剣に魔法使いを見つめて言った。

その真剣ぶりに、魔法使いは今まで文句言うばかりであった自分に恥ずかしくなる。

目の前の人は敵なんかじゃなく、きちんと自分を尊重してくれる人なんだと。

目頭が熱くなった。

「…悪かった」

「ん?」

「今まで、生意気な口聞いたりして、悪かった、です」

勇真はポカンと口を開く。

「どうかしたんですか?」

「お前、敬語使えたんだな」

「そっち!?」

せっかく殊勝な態度を取ったのに、予想外の反応に驚き、内心怒りも感じていた。

「出会ってから今までタメ口貫いていたから、大人に対してそういう対応しかできないかと」

「そんなの最初はあなたのこと、盗み見している犯罪者だと思ってましたし、さんざん逃げようとするから、敬うなんて考えもしなかったから!」

「お前の話しやすい方法でいいよ。今さら敬語使われても、違和感しかないしな」

笑いながら、バンバン愉快そうに背中を叩く。

その様子を見ていたら、敬う気持ちは芽生えたが、わざわざ態度を変えることがおかしいと感じてしまった。

「まあ、あなたがそう言ってくれるなら、今まで通り…。どうした?」

勇真が手を震わせながら、うずくまっている。

「手が、手が、痛い」

「さっきバンバン叩いていたから。え、逆に俺は背中全く痛み感じないんだけど。この体、どれだけ筋肉あるんだよ」

自分の今の体の異常さに、思わず顔を引きつらせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る