第6話

 「立ち話疲れるから、さっきのベンチまで戻るぞー」

矢を引きずると、影とともに勇真の体も引きずられていく。

ずりずりざらざら、二人以外に誰もいない公園に砂の音が響く。

「痛えーな!歩くから、そのやり方はやめろ!」

「やだ。そんなことしたら、おっさん逃げるじゃん。これだけ魔力と体力がない状態で逃がしたら、絶対捕まえられないし」

そのまま、ベンチまでたどり着く。

「ふー、疲れた」

少年はベンチにドサッと座り込む。

「え、俺このまま放置?」

勇真は地面に寝転んだままである。

「ちょっとでも、矢を外したらどうなるか分からねえからな」

足を組み、ベンチに視線をずらす。

「え、何で魔法石がこんなところに?」

ベンチの上にあった透明な石を取り上げる。

「それ知っているのか?」

「一般人なら知らなくても無理ないよね。これは魔力がこめられている魔法石。魔力が少ない人とかが日常生活で使ったり、危険なところで魔力切れを防ぐときに使ったりする」

アニメやゲームでよく聞くような魔法石と同じかと勇真は納得する。

「だから、お前の姿が見えたのか」

「あー、なるほど。このケープとか帽子は一般人に見られない効果があるから、気にせず飛んでいたのに、おっさんに見られたからあせったんだよ。この魔法石に魔法効果をはじく機能があるんだな」

魔法使いだとバレちゃいけないなら、空飛ぶなと反論しようとしたが、本来なら見えないはずだったと言われてしまった。

「一般人と一緒に通っていた学校に落ちていたりもしたからな。上の人にはちゃんと調査をしてもらいたいものだ」

「だったら、俺は悪くないだろ。お前のこと言い触らしたりなんて、絶対しないから。解放してくれ!」

勇真は必死に叫ぶ。

まず、周りに魔法使いを見たとか言ったとしても、勇真が頭がおかしくなったと思われるだけだ。

それに、秘密を守ることの大切さは、勇真は身を持って知っていた。

「さんざん逃げようとした奴を信じられるかっての。あんたには、魔法使いに関する今夜のこと全部忘れてもらうから」

「それだけ、か?」

「何?命でも取られるかと思った?基本魔法使いと一般人は共存しているんだから、むやみやたらに殺したりしねえよ」

「お前が安心できるなら、それでいい」

冷静に言い繕っているが、内心安堵していた。

殺されるとなったら、抵抗するつもりではあったが、そのときにこの少年の安心を保障できるか分からなかったからだ。

この少年はやらないといけないことをやろうとしただけで、悪ではないのだから。

「記憶操作の魔法かあ。魔法辞典は重いから、新しいのこっちで買おうと思って、前のは父さんに預けちゃったんだよな」

少し雲行きが怪しくなってきた。

「スマホで調べよ」

「出てくるものなのか?」

「魔法使い用のスマホだから」

ポチポチ打ちこむ。

「こういうのって、上の人たちが対応するものじゃないのか?」

「そんなことしたら、俺もバレるじゃん。監視程度ならまだいいけど、魔法学校を受けられなくなったら困る」

これかな、と探していたものが見つかったようだ。

「えーと、失敗したら廃人になる可能性が。まあ、俺なら大丈夫か」

「いや、物騒なこと言ってるよな!俺が大丈夫じゃない!」

「まあ、記憶全部なくなったら、俺が仕事紹介してやるよ」

「失敗する前提じゃねえか!」

叫んでこの後起きる展開を避けようとするが、スマホに載っている呪文を唱えていく。

(くっ、ここまでか!)

目をぎゅっと閉じ、覚悟を決める。

そのとき、二つの魔法石が白く光り、辺りが真っ白で何も見えなくなった。

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