第5話

 普段見慣れない言葉を、じっくりと見る。

「んなまじまじと見るほどでもないだろ。一般人でもあるまいし」

そのことを言った途端、少年はじっと勇真をにらみだす。

「おっさんも出してよ、免許証」

「え…」

この場における免許証というのは、自動車の免許証ではないということは分かっていた。

「おっさんの年齢くらいなら、箒免許持ってんだろ。俺達にとっての箒って、一般人の自転車レベルだけど、事故も多発しているから、俺が生まれた頃くらいに免許制になったから」

「へ、へえ…」

魔法使いというファンタジーの存在の割には、安全性が高い。

「ふーん。そのことに納得するんだ」

「やべっ」

口を滑らせたことに気づいた勇真は駆け出そうとする。

「逃がすかよ!」

少年からどこからか黒いロープが飛び出てきて、勇真を捉える。

「んぐっ」

そのことでとっさに身動きが取れず、転がっていく。

「大人しくしてくれない?」

「そいつはお断りだな」

勇真はロープを引き裂く。

「は!?」

少年は驚きで大声を上げる。

「あいつ、何て馬鹿力だよ」

そう言っている間に勇真は逃げていく。

「これ使うと、魔力消費するからあまりやりたくなかったのに」

少年は黒い煙とともに、真っ黒な弓矢を出す。

「何てもの向けてきてるんだ、あのガキ!」

「これ、魔力の塊だから、目的のもの以外は傷つかないよ」

びゅんびゅんと矢が飛んでくるが、勇真の際際をすれ違ったり、避けたりして当たらない。

そして、壁をすり抜けていく。

「下手くそ!」

これなら逃げられそうだと安心した途端、足が進まなくなった。

それより、体全体が動かなくなった。

「ぐっ。何だよ、これ」

見えざる力によって、体が硬直させられてしまった。

「はあはあ」

息切れしながら、歩いて少年はやってくる。

「お前何でそんな疲れてんだよ」

「この弓矢使うと、魔力やら体力やらいろいろ消費するの」

「それで何をやったんだ?」

少年は勇真の影を足でたんたん踏みつける。

「あんたの影を固定したんだよ」

勇真の影に矢が一つ刺さっている。

「この弓矢は刺さったものにまつわる全てを動かなくさせる。あんた本人に刺されば楽だったけど、影に刺しても有効なんだよ」

「命を狙う気はなかったんだな」

そのことにホッと一息つく。

「当たり前じゃん。一般人を殺したりなんかしたら、箒免許証剥奪されるし、魔法使いじゃいられなくなる」

話を聞いてから、矢を抜こうとするが、全く動こうとしない。

「無駄だって。おっさん、すげえ馬鹿力だから物理だと捕まえるの難しいかもしれないけど、一般人なら魔法よく分からないから、解く方法なんて分からないだろ」

「さっきから言ってる一般人って、何だよ」

「俺達魔法使い以外の魔法を使えない知らない普通の人たちのこと。さて、詳しい話を聞かせてもらおうか」

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