第4話
「マジで疲れてんな」
勇真は目をこする。
しかし、石越しに人の姿が見えることは変わりなかった。
石を下にずらしてみると、満月の前の人の姿は見えなくなる。
また上に戻すと、人の姿が見える。
「この石には何もないよな」
ハンカチが手元にないので、服の裾でこするが、見えるものは変わらない。
「ここからじゃ、よく見えないよなあ」
思わず、スマートフォンでやるように、石に二本指で触れ、広げて、遠くまで見えるようにした。
できるわけないと笑ったが、本当に人の姿が拡大されたので、目を見開いて驚く。
「何なんだよ、この石」
拡大された姿を見ると、全体が黒か紺色の装束で覆われており、頭にはとんがり帽子、またがっているものは箒であった。
勇真は目に見えるもの全てに訝しみ、首をかしげる。
すると、今まで進行方向を見ていた魔法使いが不意に視線を外す。
誰かに見られていることに気づいたようだった。
そして、石越しにだが、二人の目が合った。
「やべっ。気づかれた!」
とっさに石をポケットにしまう。
「さっきからのぞき見していたの、あんた?」
背後から声がする。
恐る恐る振り返る。
真っ暗なため、シルエットしか見えない。
不意に部屋の明かりがつく。
むすっと、不機嫌そうな顔をする少年がいた。
「だから、あんたかって言ってんだけど」
その姿は、黒いとんがり帽子の下に真っ白な髪、真っ白な肌、赤いルビーのような目と、日本人離れしていた。
空に浮かんでいたときと同じく、黒いケープ、インナー、パンツと黒尽くめである。
ぱっと見外国人かと思われるが、日本語は流暢に話している。
背丈は160㎝ほどで中学生か小学生くらい。
中性的で小顔の整った顔つきだが、声は少し高めなものの、変声期を終えた少年の声の低さだった。
「不、不法侵入…」
「盗み見している奴に言われたくないし」
「ってか、靴!」
「あ、そっか。日本は部屋入るとき、靴脱ぐんだったね」
少年は玄関に靴を持っていく。
「何で見ていたの?言っておくけど、俺ちゃんと免許持っているからな」
「め、免許?」
懐から鞄を出し、ガサゴソと探す。
「ほら」
カードを手渡した。
そのカードは、英語で綴られており、英語の読めない勇真には分からなかった。
「おっさん、もしかして英語分からない?」
「おっさんって…」
先ほどからの少年の生意気な口調にいささか腹が立ってきている。
それとともに、おっさんと呼ばれる年なのかとショックも受けていた。
「こうすれば分かるだろ」
少年がカードに触れると、カードの文字がうねうね揺れて、アルファベットから日本語へと変わっていく。
その異様な光景にも驚くが、日本語になると一番上に大きく書かれていた。
『魔法使い 箒免許証』
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