第3話

 「今日は疲れたなあ」

勇真は缶ビールをぐびぐび飲む。

今回の仕事場は、勇真が住んでいるアパートの近くであり、帰り道の途中にあるコンビニエンスストアがあるので、そこで夕飯やお酒を買った。

コンビニから、真っ直ぐ家に帰る。

色あせた壁の古いアパート。

トタンの階段をカンカン音を立てながら、上っていく。

ドアを開け、部屋の明かりをつけると、しかれっぱなしの布団とレビ袋にまとめられているゴミが散乱としている。

「燃えるゴミの日にまではまとめておかないとな」

頭をガシガシかく。

エアコンはついてはいるが、電気代のことを考えると、安易につけられない。

窓を開けると、生暖かさを感じるものの、風が流れているので、夜風で済ませることにした。

すっかり夜になり、真っ黒になった空には雲一つ浮かんでおらず、満月が白く輝いている。

これだけでも明るいと、電気代節約のため、明かりも消す。

それを勇真はぼんやり眺めていた。

「明日には給料入ってくるんだよな。何もなかったけど、曰く付きだったらしいから、多めだといいよな」

勇真は見えない悪意ある何かを感じてはいたが、本棚が倒れこんだのはただの事故だと思っており、結果的に自分の体でかばうことができたので、問題はないと思っていた。

勇真は、自分の怪力が周りから恐れられているのを知っており、その人間関係のわずらわしさから、毎日同じ場所に通う定職はやっておらず、自分の怪力が役立つ引っ越しなどの力作業や、恐怖に鈍いため幽霊が出てくるなどの曰く付きで高い給料のところに呼ばれたら働いている。

激安のアパートに住んでおり、食事も軽く済ませることが多く、趣味もなくお金をかけることもないため、家に引きこもっていることが多い生活でも、なんとかできている。

明日に入ってくる給料の具合によっては、仕事の頻度が変わってくる。

明日は仕事はないため、夜遅くまでゆっくりお酒を飲んだりできる。

たまに常連で一緒に働いて、顔を合わせる人もいるが、必要以上に人と関わりたくない。

それが、今回飲みの誘いを断った理由でもあった。

「ん?」

窓辺にもたれかかっていると、サッシに何か置かれているのに気づいた。

見ると、透明ででも立体的なものが二つあった。

手に取ってみる。

手のひらの大きさほどの楕円形の石。

それなりの重さがあり、ずっしりとくる。

持っている感触なければ分からないほどの透明さ、まるで水晶のようだった。

月にかざして見てみる。

「え?」

一瞬口が生えたように、歯のようなギザギザした線が浮かんだかと思ったが、見直すと何もなかったので、すぐに気のせいだと思った。

「さっきまでなかったよな?」

月の光に反射して、キラキラ輝いている。

いつまでも見ていたいと思えるほどだった。

じっくり見ていると、満月の辺りで何か飛んでいるのが見えた。

最初は飛行機か鳥かと思ったが、どう見ても形状が違う。

横に細長いだけじゃない。

縦にも長かった。

さらに目をこらすと、勇真の目には人が何かにまたがって飛んでいるように見えたのであった。

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