第30話 泉の女神様は水の精霊

 泉の女神様、藁の服に続いて干上がった泉もしゃらんと復活させた。

 流石、れべる129の水の精霊である。

 しかし、それだけの力を持ちながら火の鳥さんには勝てなかった。


 そう、問題はそれだ。

 お試しで使った二種類のスキルは相当ブッ飛んでたってことである。

 あの『まじかる☆ふぁいあ』の炎の威力然り、そして『大天使の奇蹟』による蘇生能力然りだ。

 とてもじゃないけど、れべる1で使えるような代物じゃないと思う。

 そう言えば、この世界の目的のひとつが魔王討伐だった。

 こうなると、勇者抜きでも『まじかる☆ふぁいあ』だけで行けそうな気がする。

 また、今回は使用を見送ったけど、『まじかる☆めてお』だと魔王城ごと更地にできそうな気がする。

 どちらもお試しスキルだったから、今度はいつ使えるかわからないけど。

 さっき、一旦れべる37になったけど、新たなスキルは増えなかった。

 何か、れべるとは別の取得条件とかあるのだろうか。

 ともかくも、新しいスキルとか覚えたら、余程慎重に対処しないと大惨事を引き起こす可能性が高い。

 気を付けよう。



『蚊ーくん』

 さっきからウインドウに表示がされていた。

 こちらも女神様同様に火の鳥さんの餌食になったけど、どうやら無事復活できたようだ。

 実際に目で確認すると、木の陰からこちらをチラチラうかがっている気配がする。

 多分、女神様が怖いのだろう。

 死球の件もあるし、魂ごと滅殺みたいなこと言われてビビってたもんね。

 さっきも羽虫滅殺ムーブ出てたから、姿を現さなくて正解だよ。

 こちらの用件が済むまで、もうちょっと待っててね。



「女神様、服ありがとうございました」

 藁の服あざーす(要らないけど)。

「私は、なくしたものを正直に言った持ち主に返す。そういった性質の力を持っています。ちょっと強引ですけど、条件さえ整えば、失ってしまった状態を本来あるべき形に戻すということも可能なのです。」

 藁の服とか泉の復活もその力によってということらしい。


「あなたは私に大切なものを返してくれました。そのお礼でしょうか。」

(ん? それって…。)

 女神様の蘇生(命の返却)が思い浮かぶ。

 でも、それってマッチポンプだよね。

 火魔法と水の精霊なだけに…。

 さすがに、蘇生の功績だけを評価されるのは気が引けた。

「いえ、実は火の鳥はなんですけど…。」

 女神様の人差し指がスッと口元に伸びて発言を遮った。

「私が意識を失っている時に、あなたの苦悩の感情が、それが優しい何かと一緒に流れ込んで来たのをおぼろげながら覚えています。」

 今は、すべて元通りですからいいじゃないですか。

 そう締めくくって女神様は優しく微笑んでくれた。


 うん、良い人だ。

 いや、良い人というより、お人よしの方な気がする。

 乙女ウブっぽいところも含めてちょっと心配になる。

 まあ、嘘とか結構敏感みたいだし、大抵は物理で片付くと思うけど…。

 

「でも、その服だとちょっと女の子としては、問題ありよね。」

 こちらが、心のなかで女神様の心配をする一方、女神様もこちらを心配してくれていた。

 でもなんか、女の子を強調されるとくすぐったい。

 確かに、問題はありまくりです。

 特に、ぱんつとか。


 そこで、天啓がひらめいた。

 女神様のぱんつを一着譲っていただくというのはどうであろうか。

 中の人は中年であるが、今は身体は女の子である。

 同性でのぱんつの融通はありではなかろうか。


 …うん、ないな。

 嬉々として女神様の使用済ぱんつを履く自分を想像してみた。

 男の時は当然の変態だが、今の少女の自分の姿で想像しても変態だった。

 そもそも、普通の常識としてありえない。

 自分から言い出しておいて何だが、何が天啓だ。

 そもそも、どの面下げておぱんつくださいなんて言えるのだ。

 しかも、この女神様、そういうところうるさそうだし、せっかく今のところ好印象を与えられているのに、一発アウトになりそうだ。


 …いや、待てよ。

 ぱんつは無理でも、女神様の服とか一着融通ならありかもしれない。

 こちらならセーフだろう、それを頼んでみることにした。


 駄目だった。

「ごめんなさい。これは服であって服ではないの。人とは違って、この服は私たちの一族では最初から存在しているもの。亀とか蟹の甲羅みたいなものと思ってもらえばいいのかしら。」

 とのことで、亀や蟹を例にあげるあたり、水の精霊らしい答えだった。

 人で例えると皮膚みたいなものだろうか。

 でも、蟹ならワンちゃん脱皮できないだろうか。

 脱皮する泉の女神様とか、 いいぞーぬげー、みたいな。


 結局、服関連について女神様は役立たず(脱皮不可)だった。

 服については一旦諦めることにした。



「そういえば、この泉からシルクハット被ったタコみたいな人が出てきたんですけど。」

 あのタコおじさんのこと聞こうと思ってたけど聞けてなかった。

 まあ、今まではそれどころじゃなかったけどね。

 あの、紳士な格好をした関西弁のエロタコと表現すればいいのか。

 ここに来て、最初に出会った人物(タコ)であり、この泉から出現したから何かしら関係ありそうなんだけど。


「ああ、アレね。 私に結婚の申し込みによく来るのよ。しつこいったらありゃしないわ。あなた、アレと会って何か変なことされなかった?」

 あー、それは大丈夫、まだ変身前(男)だったから。

 それにしても、女神様も大変だね。

 あのタコおじさんのセクハラに悩まされているのか…。

「大丈夫です。女神様は平気なんですか?」

 あのタコおじさん結構強そうだったし、物理攻撃も相性悪そうだから気になった。

 触手でウネウネされる女神様をちょっと想像した。

「あのタコ足、ウォーターカッターで切り刻んでもすぐ生えてくるのよね。鬱陶しいったらありゃしないわ。まあ、再生も無限じゃないみたいだから、ある程度切り落としてやるとスゴスゴ退散するのだけど。」

 物理じゃなくて水魔法か、流石れべる129の水の精霊である。

 残念だが、ウネウネシーンはお預けのようだ。


 足で良かったね、タコおじさん。

 男の大事なアレを切り落とされる可能性を頭に浮かべてしまって、自分の身に降りかかったらと思わず身震いしていた。

 だが、自身を見下ろしてそれが杞憂であることに気づいた、

 (ああ、もう自分には関係ないのか…。)

 いや、むしろ今の自分の状況は、既に切り落とされたに等しいだろう。

 そんな哀愁に浸っている間に、女神様の怒りのボルテージがヒートアップしていった。


 「そもそも、アレが私と同じ水の精霊というのがそもそも気に食わないのよ!」

 え、同族なの?

 もしかして、女神様って実はタコの化身とか…。

「私は、タコじゃないわよっ!」

 目線を足に向けたのがマズかった。

 水辺に落ちていた石を拾って投げてきた。

 当たらないようわざと大きく外してくれたのは分かったが、早さと威力が半端なかった。

 森の木々をいくつか打ち抜いて、奥へ消えていった。

 あ、『蚊ーくん』の表示が一回消えて、また出現した。

 どうやら、投手(死球専門)女神様は興奮気味のご様子である。

 女神様のお気を鎮めるためにも、この話題は打ち切るのが妥当だろう。

 タコおじさんとかどうでもいいし。



「ところで、この近くに人の住む町みたいなのありますか?」

 話題を変えるついでに、大切なことを聞いておく。

 このまま、森の中をあてどなく彷徨い歩くことになったら大変だ。

「一番近い町なら北ね。でも、ここから歩くと3日くらいはかかるわよ。そういえば、あなたどうやってここに来たの?」


 …えっと、どうやって答えようか。

 普通に考えると、転生とかあの世の管理者の話とかはしない方が良い類のものだろう。

 一般的に考えると、変人扱いだろうか。

 こういった転生ものだと、悪い人、特に権力者とかに利用されたりがセオリーだろう。

 一番の問題は、あの世の管理者との繋がりだ。

 3210《ミツヒレ》とかには口止めはされてないけど、うっかり話して不都合がありましたとかそれが怖い。

 では、目の前の女神様はどうだろう。

 長生きしてるみたいだし、うまくすると何か情報が得られるかもしれない。

 女神様自体は今まで接してきた限り、少なくとも悪い人ではない、むしろお人よし系だと思う。

 そう考えると、相談相手としてはアリかもしれない。

 変人扱いされる可能性はあるけど、話は聞いてくれるだろう。

 問題は、この世界に住む人との接点か…。

 下手に権力闘争とか巻き込まれて利用されるのは勘弁して欲しい。

 まあ、人里から歩いて三日のところに居を構えている辺り、あまり人との接触はなさそうだけど…。

 まあ、あるとしても他の人に話さないでと言えば、黙っててくれそうではあるけど。

 あとは管理者との絡みの問題か。

 さて、どうしたものか…。

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