第28話 魔法少女はすっぽんぽん

 右手の人差し指の指先を立てると、指先の数センチ上に火が灯った。

 火は、始めロウソク程度の大きさであったが、徐々に大きくなっていった。

 指先の火を見ながら思い出す。

 昔見た漫画の中に、大魔王様の放った初級魔法の火の玉が上級魔法クラスの威力があったことを…。

(だ、大丈夫だよね?)

 先程から感じていた一抹の不安が、少しずつ大きくなる火と共に膨らんでいった。

 徐々に大きくなる火は、突然さ数倍の大きさになって形を変えた。

 翼を広げたかのようなそれは、まるで火の鳥だった。


 フ ェ ニ ッ ク ス 爆 誕 ! !


(こっ、これ、大魔王様の上級魔法の方だよ!!)

 不安は想像を超えて現実のものとなった。

 基本の魔法とかどこいった。


 その火の鳥は炎の翼をはためかせると、指先から離れて飛び立とうとした。

 指先に意識を集中して、魔力でコントロールを図る。

 (あれ、魔力って何?)

 魔力など一度も感じだことが無かった。

 ましてや扱いなど知ろうはずもない。

 コントロールに失敗した。

 よって、出来たのは原始的なお声掛けである。

「鳥さん! 待って!」

 慌てて声掛けしたけれど、鳥さんは待ってはくれなかった。

 鳥さんは飛んで行った。

 そして、泉の中に飛び込んだ。

 なんて自分勝手な鳥さんだろう。

 そんなことを考えているうちに、水面が泡立ち始めた。

 泡はたちまち沸騰したかのようにボコボコと大きくなっていった。

 水は火に強いとか属性相性でよく言われるが、そんなの関係ないとばかりだった。

 まるで油に火を放ったかのように、炎は燃え盛り火柱となって立ち昇った。


 これは大変なことになった、そう思った。

だが、泉の中には、泉の女神様を称する水の精霊がいらっしゃる。

 しかも、女神様はれべる129と非常にお高い。

 水とは関係ない物理的な投球術でさえ、他に追随を許さないほどであったのだ。

 きっと、あの普通の鳥さんを捕獲して、『あなたが落としたのは、蚊をスプレーで瞬く間に地獄に叩き落す金鳥ですか?』とやってくれるに違いない。

 だが、期待に反して泉の中からは一切反応がない。

 それどころか、火勢は増していくばかりであった。


 炎に気を取られていたためか、気が付くのが遅れた。

 ふらふらと、蚊ーくんが炎に向かって歩いていたのだ。


「蚊ーくん、危ないから離れて!」

 しかし、蚊ーくんは呼びかけに振り向くことなく、泉から立ち昇る火柱に飛び込もうとする。

「蚊ーくん、行っちゃ駄目ぇーーー!!!」

 叫びも虚しく、蚊ーくんは炎に飛び込んで一瞬で燃え尽きた。


 それからすぐ後、まじかる☆アイにより、『蚊ーくん』という表示を捉えた。

 おそらく、最小化して復活したのだろう。

 ひと安心する間もなく、再び蚊ーくんは火柱に向かって飛んで行った。

 蚊ーくんは、再び燃え尽きた。

 それからは、復活からの特攻を繰り返し始めた。


「蚊ーくんは

      飛んで火に入る

             夏の虫」

 蚊ーくん辞世の句。


 じゃない。

 これは、虫が光源に引き寄せられる性質によるものだろう。

 いくら、残機による復活が可能とはいえ、このまま見過ごすのは忍びない。

 そう考えて、一歩踏み出そうとした瞬間、大量の火の粉が降りかかってきた。

 これでは、蚊―くんを助けるどころか、自分の身すら危うい状況だ。

(蚊―くん、ごめん!)

 泣く泣く、泉から立ち昇る火柱から、距離を置くためその場から退避する。

 まだ、残機は大量にあるから、尽きる前に炎が消えることを祈ろう。


 ある程度の距離が離れると、ようやく熱さから解放された。

 だが、背中に何故か熱さが残っている感じがする。

 後ろを首だけ振り返ると、背中から煙が上がっていた。

(お、おらの藁の服が燃えちょる…。)

 先程の降りかかって来た火の粉が藁に引火したのだろう。

「あちっ、あちっ。」

 ちょっと熱い感じが、 思わず声に出してしまうほどの熱さに変わってきた。


 ここで、背中に火で思い出したのは『カチカチ山』という昔話のタイトルである。

 よく覚えていないが、悪さをするタヌキを捕まえてタヌキ汁にしようとしたとか、そのタヌキの背中に火打石でカチカチと火を付けたとか、そんなことが断片的に頭をよぎった。


 いや、それどころではない。

(み、水っ!)

 探し当てた水源(泉)はボコボコと煮えたぎっていた。


「飛び込んで

      魔法少女の

           汁となり」

 まりも辞世の句。


 タヌキ汁ならぬ魔法少女汁の完成である。


 じゃねーよ!

 自身は、蚊ーくんと違って残機がある訳ではない。

 当たり前の話ではあるが、命はひとつだけ、焼け死ぬことは避けねばならない。

 そうだ、水が無いときは転がるだったはず。

 ゴロゴロと地面を転がると、ブチッという感触と共にどうやら藁紐が切れたようだ。

 藁は繋ぎを失いばらばらにほどける。

 おかげで火のついた藁は身体から分離されたようだ。


 焼死を免れた自分は、唯々見つめていた。

 燃えて、燃え尽きて灰に変わっていく藁を…。



 藁の服を失った。


 

 魔法少女はすっぽんぽん。

 だって、ぱんつはいてないんだもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る