第34話 閑話 ミツヒレ・アケッティの野望 ① くまぁのお導き

 私の名は『ミツヒレ・アケッティ』と申します。

 千界特等管理官である『カーナ・ダオノフ』様直属の管理2等補佐官を務めさせていただいております。

 え?

 明智光秀あけちみつひで? 

 誰のことですか?


 今、私はとある人物の管理監督を行っています。

 名は『山城守やましろまもる』で、今は魔法少女『まりも』と名乗っています。

 

 その出会いの時の事を思い返していました。



 いつも通り執務室にて通常業務をこなしていた時の事です。

 私の思考をモデルに作られたAI3210ミツヒレが、端末を通じて異常発生を知らせてきました。

 異常個所を確認すると、千界管理部の備品管理室から借りてきたドアを示しています。

 一見すると単なる一枚ドアに見えますが、ドアを開けると中は異空間の部屋となっております。

 その異空間の部屋の外見的特徴からエレベーターと称されており、中のタッチパネルのボタンに登録した場所にならば、どこにでも一瞬で行けるという便利な道具です。

 先程所要があって使用したのですが、返却時間まで余裕があったので放置したままでした。



 「くまぁ。」


 ドアを開けたらこんにちは。

 くまぁという奇妙な生き物がいました。

 こちらでは、食材として重宝されているいわば家畜のような存在です。

 でも、何故エレベーターの中にいるのかが謎です。

 食堂の厨房から逃げ出したのが迷い込んだのでしょうか。

 捕獲しようと部屋に踏み込み、くまぁを隅に追い詰めたと思った瞬間、後ろでドアの閉まる音がしました。

 おや、エレベーターが動いているようです。


 着いた先は、いつも執務室の窓から見えている光景、その場所でした。

 てっきり、くまぁが逃げ出してきた元の場所なのかと思っていたのですが…。

 そこは一面の雲が広がっており、死後の魂が輪廻転生を待つ行列が果てしなく並んでいます。

 チラとですが、その中に異質な存在が見えました。

 人らしき姿が列の中にいたのです。

 死者の魂は、生前の姿を保たずに形を変え、無個性な魂の器本来の形状となります。

 私の主観から言わせると、見た目は尻尾の生えた風船と言ったところでしょうか。


 「くまぁ~。」


 おっと、くまぁが逃げ出してしまいます。

 くまぁを捕獲すると、一旦戻って食堂に向かいます。


 途中のラウンジ『ホン・ノウージ』で、何やら騒ぎが起きているようでした。

 ラウンジの中では二人が言い争いをしており、それを遠巻きに見ている人が数名いるようでした。

 その言い争う二人を私は良く知っています。

『カッツェ・バーシタ』と『トルシエ・ダーマ』、変態で有名な二人でした。

 前者は、自分は猫の生まれ変わりだと称し、猫耳メイドの恰好をしたオネエ(おじさん)です。

 確か自分の前世が猫だと思い込んだせいなのか、動物愛護の精神に目覚めたようで、くまぁ食反対運動についても最先鋒の方だったはずです。

 後者は、華やかで派手な奇抜な格好(カブキ者を自称)をした青年です。

 と言えば聞こえはいいのですが、着ているのはカラフルなアニメTシャツ(スクール水着を着た幼女が描かれた)です。

 羽織っているジャケットには2頭身化されたその幼女と思しきキャラが所狭しと活動している姿が描かれていました。

 確か、ツーマという名の親戚の幼女を引き取って、自分のだと公言しているロリコン変態男です。


「トルシエちゃん。くまぁちゃんはワタシが保護するのよん。」

「カッツェのおやじぃ。俺のツーマが飼いたいっていうから、くまぁは俺が頂くぜ。」


 やはり、このくまぁが逃げ出したことで騒ぎになっていたようです。

 というか、勝手に捕まえて自分の物にするのは如何なものでしょうか。

 そっとその場を後にし、食堂の厨房に向かいます。

 くまぁを返却すると、すぐにあの場所へ取って返します。


「くまぁぁぁぁぁーーーーー。」


 何やらくまぁが叫んでいるみたいでしたが、心ここにあらずです。

 私の心は逸っていました。

 先程の魂の列にいた人物について考えると、いてもたってもいられませんでした。

 死後、器の形にならずに生前の姿を保つのは異例です。

 これを転生させると大いなる功績をあげ、管理部にも多大な功績【エネルギー】を得ることになります。

 かくいう私も【エネルギー】を密かに個人で貯蓄しています。

 もし、強大なその【エネルギー】を私が密かに独占できたら…。

 事実、管理官のさらに上の存在ともなると、亜神に等しいほどの権限と力を持っているとも聞きます。

 いつの日にか、あの忌々しい上司カーナを超え管理官に、そして千界統括管理官になる。   

 そしていずれは神へと至るのです。

 上司カーナはこの場におらず、今日は外出先から直帰するとのことです。

 これは、千載一遇のチャンスです。

 この機会を逃す手はないと、慌ててエレベーターに乗り込みました。



―― ②へと続く ――

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