第54話 あたりを照らす投光魔法

 危なかった……。


あと少し遅ければルイさんの頭は吹っ飛ばされてたぞ!


「えっ? 頭ついてます私?」


「安心せぇ、ちゃんとついてるで」


「今の何!?」


「おそらくケルベロスです! 皆さん気を付けてくださいね、まだ近くにいるはずです!」


僕は松明だけでは圧倒的に不利だと判断した。


相手は地底という暗闇の中で活動するモンスター、


振動や音を機敏に感知するタイプなのだろう。


視覚からの情報を大事にする僕らにとってはこの差はあまりに大きい。


僕は剣を地面に突き立て、空中めがけて魔法を放った。


「今からこの洞窟を照らします、これで少しは戦えるはず!」


僕が放った魔法は周りを照らす投光魔法と呼ばれるもので、


洞窟内を明るく照らした。


まるで部屋にいる時と同じ明るさになったことで、


洞窟内が鮮明に映る。


青黒い結晶のような壁には鉱石が含まれているのか、


光によってキラキラと輝き、


水の流れる音に交じってケルベロスの唸り声が不気味なメロディを奏でているようだ。


鼻をツンと刺激するような匂い、ケルベロスの食い散らかした食べ物か?


視覚に頼れるようになったことで匂いまで認知できる余裕ができたのか、


途端に気持ちが悪くなるほどの異臭を放っている。


問題は投光魔法は常時魔力を消費するという事、


これほどの大きさを照らすとなると、


もって10分程か……。


「みなさん、これで戦えると思います、ですが、長くは持ちません! 10分で勝負を決めてください!」


「10分!? 短かないか?」


「それでも……」


「やるしかないですよね!」


3人は覚悟を決め、周囲を警戒する。


姿を消したケルベロス、唸り声は聞こえるが、


どこにいるかは視認できていない、


向こうもこちらの隙を伺っているはずだ。


本来なら僕も協力するべきだが、


これは3人にとって最後の訓練だ、


手を出してしまえば、彼女たちはもしかしたら二度と自分たちでどうにかしようとは思わなくなってしまうかもしれない、


僕は3人の身を案じるしかできなかった――――


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