第4話 おつかい戦線(上)

―――沙坂 鏡子(現在3歳)

 

 季節は蒸し暑い夏になっていた。


 リビングで『羅生門』を読んでいると、キッチンから母さんのあたふたした声が聞こえた。


 なんかあったのかな?

 

 目をつぶると脳内マップのキッチンを示す場所に黄色のマークが浮ぶ。


 これが3つ目の能力『サーチ』である。


 最初は近くの人を黄色で表す能力かと思ったが、母さんが近くにいるのに黄色のマークが浮かばないことがあった。


 この能力は、困った人がいるとマップ内の人が黄色のマークで表せるという能力である。(半径10m内)


 前回の仮説は正しかった。


 やはり誕生日の日に新たな能力を手に入れることができるようだ。


 今回は脳内マップの性能強化といった感じだ。

 

 この能力を手に入れた時、『神は俺に何を望んでいるんだ……?』

と思ったりもしたが、『せっかく手に入れた能力だし困った人は助けろってことか!』と勝手に1人で納得している。


「お母さん、何か困ったことあるの?」


 母さんとも、ママというのもなにか違う気がして、間を取ってお母さんと呼んでいる。


「あ~鏡ちゃん、今日はオムライスにしようと思ってたんだけれど、ケチャップがなくなってたの……オムライス食べたかったのに~!」


 ケチャップが足りないのか……


「お母さん、おつかい行ってきてあげようか?」


 

 10分後……


「それじゃあ、よろしくね!」

 

 母さんにおつかいメモと、お財布が入ったショルダーバッグを受け取り、近くのデパートに向かうのだった。



 ◇



 俺は今、非常に困っていた。


 ヨークルモールは家から住宅地を少し歩いた、徒歩5分くらいの所にある。

 

 食品売り場や、フードコートなどあらゆるものがそろっている便利な店舗だ。

 

 ドレミファ~とぼう有名おつかいソングを口ずさみながらヨークルモールに来たところまではいい。


 俺はおつかいメモを見て驚愕した。



・ケチャップ


・好きなお菓子



 ここまではまだいい、ここからが問題だ。



・スイカ大玉 2玉

 

・メガスケパスマ・エリトロクラミス 


・鏡子のおもちゃ


「えっ……?」


 色々突っ込みどころはあるが、まずスイカ2玉である。


―――重いわっ!

 

 大玉スイカ1玉はだいたい7㎏くらい、2玉で14㎏。


 それに比べ、現時点での俺の体重は13㎏ほどだ。


 はじめてのおつかいにしては難易度が高すぎる!

 

 そう思ってメモをよく見ると、スイカの所からは父さんの字になっている。


 普通のおつかいメモだと思って父さんが書き込んだのだろう。


 父さんはスイカが大好物で、俺と母さんに食べさせるために2玉にした。


 鏡子のおもちゃと書いているところからも父さんのやさしさが見て取れる。

 

 だが俺はそのやさしさに潰されている。


 もう重たい何かに潰されて死ぬのはごめんだ。


 次に、問題なのはメガスケパスマ・エリトロクラミスである。


 なんだ、父さんは炎魔法でも習得する気なのか?


 俺は剣と魔法の世界に転生したつもりはない。


 こうして俺は、はじめての?おつかいを始めたのだった。



 ◇



 まずはおもちゃだ。


 おもちゃとメガスケなんとか以外は食品売り場で買えるし、先に買っておいたほうがスイカを持たずに移動できる。


 断じて、自分でおもちゃを選ぶのにワクワクしているからではない。


 断じて、自分でおもちゃを選ぶのにワクワクしているからではないのだ。


 今回、財布に入っていた軍事金は1万500円。


 500円は最初に母さんが入れたもの、1万円は父さんが追加したものだろう。


 先ほど食品売り場に行って確認しておいたが、スイカは一つ4000円ほど。


 つまり、メガスケなんとかは少なくとも2000円以内で購入できるものになるはずだ。


 あまり玩具にお金はかけられない。ということで最初に向かったのは100円ショップだ。


 100円ショップは、食品売り場から右に向かってエスカレーターを登り、4階のフードコートの近くにある。


「おお!」


 さすが100円ショップ、たくさんの品物がある。


 だが、平日だからかあまり人は混んでいない。


 まず目についたのは、色とりどりのペンや消しゴム。


 文房具コーナーを抜けると、奥のほうに玩具コーナーが見える。


 家にあるのはパンヒーローのおもちゃばかりで暇なのだ。


 もっと俺が楽しめるようなものを買いたい。


 ブロック玩具でもいいけど……


 ふと視界に移ったもので、工作部での苦い思い出がよみがえる。


「輪ゴム銃か……」


 俺の手には、黄緑色でプラスチック製の輪ゴム銃があった。

 

 あまりいい思い出はないが、輪ゴム銃を使うのは結構得意だ。


 練習すればもっとうまくなるだろうし、暇つぶしにはちょうどいい。


 俺はレジにに向かって歩き出す。


「その前に……」


 俺は店員さんを見つけるとこう言った。


「あの、メガスケパスマ・エリトロクラミスってあります?」


 店員さんの表情が固まる。


 俺の脳内マップには、しっかりと黄色いマークが出現していた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る