第3話 能力者

 1歳の誕生日、ありえないことが起こる。


 俺の誕生日は4月3日で遅生まれだ。


 その日は誕生日なこともあって、イチゴの離乳食だった。


「鏡ちゃんおめでとー!」母さんと父さんがお祝いしてくれる。


 幸せな気持ちに俺はふと眠くなった。


 赤ちゃんは食べて、すぐ寝るのが宿命である。


 眠くなった俺は目をつぶって眠ろうとした……


 その時である。


―――?


 何やら頭の中に地図のようなものが浮かんできた。


 どうやら、これは俺の家(マンション)を上から表した図のようだ。


 白黒で表された簡易な円形の図は、俺の中心から半径10m(バスの全長くらい)に広がっている。


 俺の家の玄関、リビング、寝室なども分かりやすくイメージすることができた。


 「……」

 

 転生したら能力を授かるというのはあるあるだ。


 そして俺は悟った。

 

 そう、俺の能力は『』である!


 

 え?

 

 

 弱くね⁉


 目をつぶると脳内に地図が浮かぶ能力!


 範囲が広かったら便利かもしれないけれど、実際は半径10m!


 狭い! 完全にスマホのマップ機能の劣化版である。


 どうせなら空を飛んだり、瞬間移動できたりする能力が良かったのに……


 しかし、どんなに能力が弱くても能力を持っているということが判明すれば、普通の生活が送れなくなるかもしれない。


 そう思った俺は、転生したことと同様にこの能力を秘密にすることにした。



 ◇



 次は2歳の誕生日の時に異変が起きた。


 小学生の問題を完全制覇した俺は、誕生日プレゼントのパンヒーローぬいぐるみを枕代わりにして中学1年生の教科書を攻略していた。


―――この英単語が分からないな、英語辞書は確か……


 家の本棚は結構大きい、母さんが本好きなこともあって業務用冷蔵庫2個分くらいのスペースにぎっしりと本が詰まっているような感じだ。


 俺が本や図鑑、漫画が好きなのも母さんの影響かもしれない。 

 

 あった。


 3段目の棚に英語辞書を発見。


 しかし、手を伸ばしても届かない距離にある。


 なんとか手に入れようと必死に手を伸ばしているときだった。


 シュンッ


 体が宙に浮く感じがする。


 と思ったら足が地面についた。

 

 正確には、3段目の棚の上に瞬間移動したというのが正しいだろう。


 本を入れてわずかなスペースしかない足場に俺は立っていた。


―――落ちる!


 だが俺もただでは落ちない。


 ちゃっかり英語辞典をつかんで床に着地。


 見事な運動神経である。


 これが俺の2つ目の能力、『瞬間移動』を使う瞬間であった。


 瞬間移動来たーーー!


 俺の叫びが神に届いたのか便利な能力が来た!


 この時の俺は浮かれていて気づかなかったが、瞬間移動できるのは1日1回限定で、移動できる範囲は脳内マップの中だけである。


 つまり、半径10m内を移動するだけの能力。


 俺はがっくしと肩を落とした。


 しかし、俺はあることに気づく。


 1歳、2歳の時に能力が発現したのは偶然ではない。


 おそらく俺は、誕生日の日に新しい能力を手に入れることができる。


 今は役に立たないような能力だが、いつかもっと役に立つ能力が来るのではないか?


 そう考えると次の誕生日が楽しみになった。


 

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