第2話 沙坂 鏡子

 どうやら、俺は前世と全く同じ世界に転生したらしい。


 生きる世界も家族も同じだが、なぜか前世とは違う姿になっている。


 俺の新しい名前は、沙坂さざか 鏡子きょうこ


 ちなみに鏡子という名前は、俺の銀色の髪からきたらしい。


 素晴らしい安直あんちょくさである。


 俺が鏡子になったあの日、いろいろなことを考えた。


 また母さんや父さん、家族に会えたのはうれしい。


 それでも、もう誰も沙坂さざか とおるとしての俺のことを覚えていない。


 いや、知らないのだ。


 転生してしまった今、前世とは異なる姿を持っている。

 

 家族も友達も、誰も俺として接してくれなくなるかもしれない。


 元のような関係を築くことは難しいかもしれない。


 そう考えると怖くなった。


 自然と涙があふれる。


 そんな時、母さんが子守唄を歌ってくれた。


 懐かしくて暖かい。


 いつも笑顔で優しい母さん。


 いつもは、おっちょこちょいだけど、困ったときに頼りになる……


 こともある優しい母さん。


 変わらないなと思った。


 そうだ、それでいいじゃないか。


 元のような関係を築けなくても、もう会えないわけではない。


 そう考えると気分が楽になった。


 ……

 

 また、いちから学校に行って勉強をし直すのか。


 そう考えると気分が苦になった。


 

 もう英語はしたくねえ!


 いい点数が取れなくて母さんに笑顔ですごまれるのは嫌だ。


 そんな時、俺の頭に名案が浮かんだ!


 今から勉強すればいいのでは?


 確かに勉強は嫌だが、赤ちゃんなので特にすることがない。


 1日30分勉強するだけでもかなり天才になれるのでは?


 家の本棚には母さんのおさがりなどで、教科書1式がそろっているはずだ。


 だが、赤ちゃんなのに勉強しているのがばれたら大変だ。


 まあ、母さんにならばれても大丈夫そうだ。


 しかし、父さんにばれたら腰を抜かすだろう。


 これで前世の記憶を持っていることがばれたりしたら……


 ばれる→病院行き→研究所行き→END


 なんてことになるかもしれない。


 家族に迷惑をかけないように、前世の記憶を持っていることはばれないようにしよう。


 だが、勉強はする。(学生の皆! ここだけ切り取って君の家族に見せよう!)


 そして、まだ勉強をしなければならない理由がある。


 俺は中学2年生の新学期、4月8日に死んだはずだ。


 その未来を変えるために少しでも知識を蓄えなくてはならない。


 だから面倒でも勉強は大事なのだ。


 こうして俺は母さんの子守歌のなかで、新しい人生を生きることを決心した。

 


 ◇

 


 そして順調に時は流れ、俺はもうすぐ1歳。

 

 家の本棚はリビングから通路をぬけ玄関の近くの部屋にある。


 俺はついにベビーベッド木製の牢屋卒業脱獄し、自由の身に。


 そして何とか母さんの監視を抜け出し勉強。

 

 俺は今小学3年生までの教科書をすべて暗記し終えていた。


 一応、小学校の勉強からやり直してみたが、転生してから記憶力が良くなったような気がする。

 

 これも1日30分の勉強の成果である。頑張ったぞ俺!


 こうして俺は赤ちゃんライフを勉強に注いでいた。

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